こんばんわ、トーコです。
今日は、井上靖の『風林火山』です。
■あらすじ
世の中は戦国時代。軍師山本勘助は武田信玄に仕えていた。
そのころ、信玄は諏訪地方を制圧し、殺した諏訪氏の娘である由布姫を側室にした。
■作品を読んで
読む前は、この作品はかなりお堅くて格調が高くて、結構読み進まなさそうだなと思っていました。
が、その読む前の思い込みはのっけから一蹴され、読みやすくかなりスリリングにどんどん進んでいきます。
とはいえ、最初に紹介しているのは青木大膳という人物なので、山本勘助が途中まで主人公だと思わずに読み進めてしまいましたが。
青木大膳が殺されるまで山本勘助が主人公だということに気が付きませんでした。
それにしても、由布姫の設定はなかなかに珍しいです。
実際の人物がどんな人かはわかりませんが、作中で実家の武田信玄との戦いに負け、諏訪家は追い詰められても、「自刃は嫌だ」と全力で叫ぶお姫様です。
そんな人物なかなかいません。どんなお姫さまですか。
由布姫は自刃は免れますが、その代わりに信玄の側室になります。
なにがすごいって、由布姫は信玄を愛しつつも、一族の敵として命を狙うという、このかなり矛盾した感情を抱えながら生きています。
ただ、運の良いことに勝頼という世継ぎの男の子を産むことができたことでしょうか。
世継ぎがいれば諏訪家の血筋を絶やすことはないのですからね。
この作品は、山本勘助が主君の武田信玄を軍事面をはじめとしてサポートする一方で、美しくやや猪突猛進気味の由布姫をサポートするという両輪があっての話なんだな、と思います。
山本勘助の軍事面でのサポートはなかなかです。見事に狙い通りになるのですから。
ただ、川中島の戦いは謙信に見事にやられてしまいますが。
山の方から襲ってくるとみていたものが、霧の向こうから襲ってくる。
しかも、武田軍は方々に軍を分けたので、数的にも絶対的に不利。
山本勘助は川中島の戦いで命を落とします。69歳という年齢は当時では長生きの部類に入ります。
武田信玄と上杉謙信という2大ヒーローの直接対決は最後の最後で果されたのだろうかというところで幕が下ります。
ま、あくまでも主人公は山本勘助なので、関係はないのかもしれません。
描き方としては、うまく線引きされている気がします。書きすぎているわけでもなく、史実に基づいて淡々と描いています。
今では血の通った人物に行動させるという手法をとっているのは当たり前ですが、あとがきを読むとそれは新しい試みだったようです。
そういう意味でもすごいのでしょうね、この作品。
■最後に
山本勘助を巡るスリリングな展開の戦国絵巻です。
信頼のおける主君武田信玄と、ひょんなことから出会った美しい由布姫を守ることを生業に勘助は生きています。
時代小説ぽくない展開をする鮮やかなエンターテイメント小説です。