こんばんわ、トーコです。
今日は、島本理生の『ファーストラヴ』です。
■あらすじ
女子大生の環菜は父親殺しの容疑で逮捕された。しかし、明確な動機は不明だった。
彼女のノンフィクション執筆のため、臨床心理士の由紀は環菜とその周囲に取材する。
■作品を読んで
不思議とページが止まりませんでした。
この作品は、移動時間中に読んでいました。
ちょうど物語がクライマックスを迎えていい場面で電車を降りなければならず、興奮冷めず非常に続きが気になりながら歩いてました。
もっと言えば、移動目的よりも続きが気になりました。 寝食を忘れて読める久しぶりの本です。
まあ、置いといて。
この作品は、娘が父親を殺すという非常に重いテーマを扱っています。
正直一体どんな話なんだろうと気になりはしましたが、なかなか手に取りづらい本でもありました。
この作品は、臨床心理士の由紀が、父親殺しをした理由を解明するため、環菜に接触し、過去を紐解いていきます。
同時に由紀は自分の過去と環菜の弁護士の迦葉とのわだかまりを解いていきます。
なんというか、見事に複数の伏線が仕組まれています。
ここにある種のエンタメ性が隠されています。
このあらすじだけでは読むのに躊躇したトーコとしては、この伏線の存在が読み進めるのにすごく救いになったといっても過言ではないです。
とはいえ、限りなくダークサイドなエンタメ性ではありますがね。
なぜ環菜は父を殺したのか。それは環菜が臨床心理士の由紀と弁護人の迦葉と関わっていく中で少しづつ自分の心を構築していきます。
彼女自身自分がなぜ父親を殺したのかすらわかっていなかったのですから。
この作品は「多面的」という言葉の意味を嫌というほど思い知らされます。
それは環菜が体験したことと感じたことが、周りにいた人間と受け取り方が必ずしも一緒というわけではない。
それに読者だって受け止め方は変わってくる気がする。読者の属している世界やアイデンティティにもよる。
おそらくですが、この作品はきっと様々な反応があるんじゃないかと予想しています。
受け手によってもきっと様々な化学反応がありそう。
裁判が始まったとき、環菜自身の言葉で真実を語ります。
そして環菜の過去を追うことで、ほかならぬ由紀自身も自分の過去と向き合うことになります。
それにしても、作品解説の朝井リョウのコメントははっとします。
トーコが言語で言いたいことが見事に表現されているので。
正直なことを言うと島本作品ってなかなか言語化できなくて、トーコの中でも感情を消化できない時があります。
なるほど、と思ったのはこれ。
想像することをサボれば、自分とは別の肉体が生きる景色を知ることはできない。目に見えない爆発の存在を知ることすらできないのだ。
小説を読む人は、他者に寄り添うことができると言った作家がいます。
ヒントを言えば、トーコもその方の作品を紹介しています。
他者に寄り添うという行為は意外と難しいものです。俗にいう相手の立場になるということでしょうか。
トーコの私見ですが、これできる人って少ないです。大体の人は
自分の理解できる範囲での自分の立場を主張するだけで終わってるな、と。
仲良くやれよ、とよく突っ込んでいるので、なおのこと。
同時に解説では、簡単に理解することができないものに出会ったときこそ、断絶を感じ距離をとるのではなく、想像するスイッチを授けられた幸運を噛みしめたい、とも書いてます。
そんな当たり前のことをと思うのですが、意外とできていないもの。
どうか、理解できないとシャットダウンするのではなく、少しだけでもいいから聞く耳を持って相手のことを想ってほしいものだと、思うのでありました。
■最後に
父親殺しという重いテーマを扱っていますが、入り込めてしまうほどのエンタメ性があります。
読者のおかれている環境でも感じ方が変わってしまう、ある意味面白い小説です。
人と違っても断絶するのではなく、分かり合えること、想像することの大切さが身に沁みます。
[…] 232.「ファーストラヴ」著:島本理生 […]