こんばんは、トーコです。
■あらすじ
大学2年のときに泉は、母校の演劇部の舞台に客演を頼まれます。依頼主は演劇部の顧問の葉山先生でした。
泉は高校時代に葉山先生が好きでした。1度はけじめをつけて、思いに蓋をしていました。
けれども、再会をしてからも未だに想いが残っていることを認識します。
一方の葉山先生にも‥。
■作品を読んで
この本は何度も繰り返し読んでいます。なんででしょうね。
高校生の頃の泉も、20歳の泉も葉山先生を本気で愛していました。
葉山先生も教え子というより、泉という1人の女性を愛していたんだと思います。
でも、2人は結ばれることはありませんでした。葉山先生が迷った挙句に奥さんとの生活を再び送ることを選んだからです。
なので、この物語は最後の別れ以降、2人は2度と交差することはありません。
最後の別れの直前、2人はあまりにも自然な描写でベットに入ります。
なんかすごいです、鮮やかでよく描いています。でも葉山先生は途中でやめてしまいます。
葉山先生の泉に対する最後の優しさなんだと思います。ですが、泉はこう返します。
「お願いだから私を壊して、帰れないところへ連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務がある」
なんだか、結ばれない想いを叫んでいるようです。
この後、2人は約束します。まったく知らないところで幸せになる、無事でいてほしい。
泉は、今日のことをいつか思い出さなくなる。また、ほかの誰かをこの人しかいないと信じて好きになる、といいます。
このシーンは何度読んでも、読んでいるこっちの心を絞られます。というか、えぐられます。
トーコとしては、このシーンえぐられポイントその1です。
その2ももちろんあります。それは最後のページのシーン。
結婚を決めた泉の前に偶然葉山先生を知るカメラマンと葉山先生のことを話している場面。
懐かしい痛みとともに好きだったという感情がこみ上げてきました。
その時の場面を描いた言葉。
これからもずっと同じ痛みをくり返し、その苦しさと引き換えに帰ることができるのだろう。あの薄暗かった雨の廊下に。そして私はふたたび彼に出会うのだ。何度でも。
薄暗かった雨の廊下というのは、高校生の泉が葉山先生に最初に出会う場面のこと。
時に思い出はこうやって痛みを伴って思い出す場合もあることを知ります。そして、読み手も改めて思い出に痛みを伴うことを意識させられます。
昔の恋って思い出すのに痛みを伴うときがあるんです。だけどそれは決して苦痛ではないんです。
様々な感情があふれてくるんです。それは全力でその人に向かったからだからこそのものです。
それにしても、この作品の凄いところは、著者がこれを書いた時22、23歳と非常に若かったことでしょうか。
一体どんな人生経験を送っていたのでしょう。しっかしまあ、エル・スールという映画よく知ってたなあ。
ここまで登場人物の感情を描いたことに驚きますし、ただただ脱帽しました。ストレートなのにかなり自然な表現で。
ただ、当時の賞の評価を読むと一般人とは思うことは違いますが、著者の作品の中で断トツの代表作であることには変わりはないと思います。
その後しばらく新しい作品が書けなかったそうですが、そんな気がします。
読んでいるこっちもかなりエネルギーを使います。結構この作品は心をえぐられますからね。
■最後に
この本は本当にすごい本です。すごい作家が現れたもんだ、と感心します。
かなり深い作品です。本気で愛して、結ばれなくて、思い出に変わるまでが描かれています。
読んでみてはいかがでしょうか?