こんばんわ、トーコです。
今日は、朝井まかての『恋歌』です。
■あらすじ
歌人の中島歌子は、萩の舎という私塾を立て、多くの歌人や小説家などを輩出していた。
だが、歌子は、若かりし頃は登世という名前で、さらには水戸藩士のもとに嫁いでいた。
そこで、内乱に巻き込まれ、投獄するなど波乱万丈の人生を送っていた。
■作品を読んで
最初から読むと、歌子の弟子の女性が入院中の歌子をお見舞いする場面からスタートします。
正直なことを言うと、弟子の女性と波長が合わないせいか、弟子の女性が語る序章の時点で退屈し、読むのをやめようかと思いました。
序章=23ページほどの分量で、です。まあ、久しぶりだ。
と言いつつも、最後まで無事に読み切りました。なんででしょう。
物語は歌子の残した手記を読み解いていきます。
歌子=元の名の登世が伴侶となる林以徳という水戸藩士との出会いからスタートします。
若いころの登世は宿屋の女将になるべく修行をしており、いずれは親の決めた婿を受け入れる運命でした。
が、宿屋に泊まりに来た以徳に登世は一目ぼれし、何としても会いたい、この人のもとに行くんだと決心してしまいます。
当時商人の娘で江戸出身の登世が、武士の以徳のもとに水戸まで嫁ぐというのはなかなかないことです。
いわゆる恋愛結婚です。ある意味すごいです。
また、トーコ個人としては学生時代を水戸で送っていたので、水戸の歴史をここまで紐解いている本を読むのが初めてで、まさかこんな凄惨な事件があったとは…と愕然としました。
まず、天狗党の乱。
幕末・開国直後のころ、水戸が諸生党と天狗党に2分して内戦がおこってしまい、負けた天狗党の家は御取つぶしとなり、さらには一族郎党もろとも牢屋にぶち込まれ、女、子ども関係なく処刑されたという事件です。
敗者は根絶やし、って、ナチスドイツか、とツッコミたくなるほどの残酷さ。ひゃー。
登世の夫以徳は天狗党だったので、内戦終了後家は御取つぶし、登世と義理の妹は牢屋にぶち込まれました。
物語りでは牢屋での暮らしを描いています。悲惨です。いくら負けただけなのにそらねーわ、といいたくなります。
戦の犠牲者というのは、どの世界でもどんな世の中でも直接戦うのは男性かもしれませんが、女性や子ども、老人だって何もしていないのに犠牲者になってしまうものです。
ちなみに、この天狗党の乱で天狗党に所属していた有能な人材を失い(登世の夫以徳もその1人)ました。
その後、諸生党から藩の実権を取り返した天狗党の残党も同じことをします。諸生党を根絶やしにします。これにより、諸生党に所属していた有能な人材を失い、結果的に水戸藩から新政府に人材を送り込むことができなくなりました。
だから、水戸藩出身の新政府高官はおらず、水戸の発展もなんとも言えないものになったのでしょう。
ただ、運が良かったのでしょうか、登世と義理の妹は無罪放免で牢屋から出られました。
が、出るときに登世は看守に逆らって折檻を受けてしまい、腰や背中に痛みを負いました。
この状態で登世と義理の妹は牢屋から出たらすぐ、水戸を脱出しました。
水戸を脱出したのち、登世は実家の母を頼り、歌人として生きるために弟子入りし、やがて私塾を持つまでになりました。明治の世になってはいますが。
波乱万丈というのは、このことです。
最後に、歌人となり名を馳せるようになった頃、登世は旧水戸藩の関係者に会います。
徳川慶喜の生母の貞芳院様です。彼女は、物語の中で薩長と水戸の違いを登世に問います。
登世が気が付かなかった点についてこう言及します。
貧しさと抑圧が怖いのは人の気ぃを狭うすることや
幕末の水戸藩は、藩全体が貧しく、藩の政策として質素倹約に勤め励みすぎており、その鬱憤を内政に向けて動いてしまったのです。
生真面目に質素倹約に向かいすぎてしまい、気が狭くなり、気が狭くなった状態で弱いものを痛めつけ、復讐を恐れて加減ができなくなる。
すごい、悪循環。一体どうやって断ち切るんだか。
ここまではいかないと思いますが、おそらく、衰退している組織はこうなるでしょうね。
本当に気が狭くなりますよ。でも、そこで人間が見えてくるもんです。人としての真価が問われるのでしょうね。
■最後に
恋歌というタイトルから、恋愛ものを想像する方も多いと思います。
ですが、知らないことが多い幕末の水戸藩史についても想いを馳せることができます。
というか、ここまでまとまっているのが珍しいくらいです。