こんばんわ、トーコです。
今日は、江國香織の『去年の雪』です。
■あらすじ
まず、驚きます。登場人物の多さに。一体何人出てきたんだろう…?
しかも、老若男女問わず、さらには時空を超えます。
さてどうなるのでしょう。
■作品を読んで
本当に不思議です。よくここまで登場人物を描き分けられるよなあ、と感心してしまいます。
しかも、うまい具合につながりを持たせています。登場人物だけではなく、その場に出てくるモノやエピソードで。
さすがにゴミ箱に捨てた餅やもらってきたばかりの薬が消え、どこに行ったのかと思えば平安時代には驚きますが。
あらすじで時空を超えると書きましたが、1970年代や江戸時代、平安時代にまでワープします。
江戸時代と平安時代の登場人物は続き物のようになっているので、「あ、さっき出てきた登場人物」とすっと入れます。
恋愛事情に関しては昔も今も変わらない、何なら同じ時代の出来事とも読めなくもない仕掛けが潜んでいます。
しかも亡くなった人まで登場します。死んだ人から見た話がそのあとにつながったり。
なんだか、伊坂幸太郎の小説のようです。あの時出てきたあの登場人物探しが結構面白いです。
余談ですが、伊坂幸太郎作品はその要素が色濃いです。しかもその登場人物探しができるHPを作っているファンまでいるくらいですから。
それにしても、これだけ登場人物がいればどこかにわたしがいます、という帯のうたい文句はその通りかもしれません。
免税店に勤めている女性の話を読みながら、まずこのコロナ渦でこの人はちゃんと雇用され続けているのだろうかと心配になります。
そして、こう思います。
みんな移動している。まるで回遊魚とか渡り鳥みたいで、ご苦労なことだと洋美は思う。生まれ育った土地での日常生活だけでも、十分疲れるというのに。
これがきっと味わえるようになるのがもっと先のことになるなんて、誰も思っていなかった気がする。遠い昔の風景。
生まれ育った土地の日常生活だけではなく、生きている土地での日常生活だけの日々に多くの人は変わってしまったのだから。
なんか、懐かしいなあと思いを馳せてみる。
平安時代の少女は、母の乳母だった女性が来客としてやってきて、再会と皆の成長に涙するのを見て、苦手だな、と思う。
まあ、少女にはまだわからない。でも、月日がたち、久しぶりに誰かと再会すると「久しぶりー、元気ー」と大きな声で言ってしまうものです。
この気持ちが分からなかったころの少女の気持ちもわかります。ただ、少しずつ薄れてきました。
それを忘れずにとらえて表現するんだからすごい。
最後は、あぶらとりがみを使いこなすおとなになるのはいつなんだろうか、とわくわくする女の子の話で終わります。
あぶらとりがみから希望を見出すってすごく斬新。
それにしても、登場人物や時空を自由に飛び回りつつ、すっとつながっている感覚に襲われます。
世界って意外とこんな感じでつながっている。そんな世の中、悪くない。
すごく面白いし、江國作品の中でもすごく珍しい作品です。
■最後に
圧巻の登場人物の量です。それなのに、場面転換が自然すぎてびっくりです。
生きている人も、死んでいる人も、カラスも犬も、全部つながっている。世界って悪くないって思えてきます。
すごく面白く、珍しい作品です。
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