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【事実の不思議】277.『トゥルー・ストーリーズ』著:ポール・オースター

投稿日:1月 4, 2021 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、ポール・オースターの『トゥルー・ストーリーズ』です。

トゥルー・ストーリーズ (新潮文庫)

 

■あらすじ

読みながら嘘か真かわからなくなってくる「赤いノートブック」、無名時代の貧乏生活を描いた「その日暮らし」など「事実は小説よりも奇なり」という言葉がふさわしい作品が詰まっています。

 

■作品を読んで

ポール・オースターはこれまで数々の作品を紹介してきましたので、列記します。といっても3冊ですが。

34.「冬の日誌」53.「内面からの報告書」267.「オラクル・ナイト」

34と53は今回の作品と同様、作者自身について書かれています。今回はどちらかというとかなり若いころの話が詰まっています。267はれっきとした小説です。

さて、戻りましょう。

作家って売れるまでが本当に大変で、何年もかかって作家で食べられるようになるとか、ならないとかという世界のようです。

著者もご多忙にもれず売れるまで何年もかかり、貧乏暮らしもあったようです。

「その日暮らし」という作品は、そんな著者の若かりし頃の姿を描いています。というか、のっけからこんな告白から始まります。

二十代後半から三十代前半にかけて、何に手を染めてもことごとく失敗してしまう数年間を私は過ごした。…明けても暮れても金が欠乏し、そのことが私をぎりぎり締めつけ、ほとんど窒息させ、魂にまで毒を及ぼし、果てることないパニック状態のなかに私を閉じ込めたのである。

…、すご。相当大変だったのでしょうね。ちなみにこの間、金銭面だけではなく、離婚と作家としての失敗等なかなか手痛い出来事もあったようです。

略している間に書かれています。…の中にはかなり濃密な人生模様があったようです。

しかも、この文章はただの取っ掛かりのため、そこに至るまでの半生としんどくてしゃーなかった二十代後半から三十代前半について語ります。

「その日暮らし」の冒頭で、著者の父親と母親について語ります。

著者の父親と母親の互いの金銭感覚がだいぶ異なっており、それは少しずつ夫婦間に小さな亀裂を生んでいました。それから、著者が高校生になったころ両親は離婚しました。

高校卒業後にダブリンやパリに行き、そこで数週間過ごします。一介の高校生が凄い資金持ってるなあ。

それから帰国し、コロンビア大学に入学します。やがて3年生になって、パリへの入学プログラムに申し込み、再びパリに行きます。

そこで、担当教員からフランス語や文法の授業、決められたものを一定数の一定期間とらないといけないと言われます。

著者の計画では、現地の学生と同レベルで、自分の興味あるものを好きなだけ取れると思っていたので、出鼻をくじかれます。

担当教員との面接で、著者は喧嘩をし、著者はその場で「もうプログラムも大学も辞めます」と宣言します。すげえ度胸…。

著者の時代は、大学生であればベトナム戦争の徴兵猶予の権利を有しています。ベトナム戦争の時期にぶつかっていたのです。

なので、当時大学を辞めるということは最悪ベトナム送りを意味しています。ですが、コロンビア大学で事情を聞いた別の教員によって無事に復学します。とはいえ、当時は大学はデモが頻発し、平常活動はほぼ行われていませんでしたが。日本と一緒ですなあ。

著者はそれから大学院を卒業し、それから母親の再婚相手のおかげでタンカーに乗務員として従事し、旅します。

タンカーで働いたお金をもとに三度パリに行きます。今度は移住です。なぜ、移住を決めたのか。著者はこういいます。

三年前にパリで自分に起こったことの記憶ゆえだったと思う。…。あの滞在が途中で打ち切られたせい、またじきに戻ってくるんだという思いとともにパリを去ったせいで、それ以来ずっと、何かやり残したことがあるような気持ちを抱えていた。…。この時点でやりたかったことはただひとつ、机にかじりついて書くことだけだった。あのころの内向と自由を取り戻すことによって、書くのに最良の位置に身を置けるのではないかと思えた。

どうやら、著者はあのフランス留学の未練を引きづっていたようですね。未練ゆえに強く、あいまいな思いを抱え、消化できずにいたことが伝わります。

それから3年半パリで暮らします。半分はパリで翻訳やなぜか裕福な人に本を書かせようとする仕事をしていました。

もう半分はプロバンスでペンションの管理人をしていました。この生活ぶりはどこかに書いていたのですが、お金が尽きたときの食事が凄かったです。人間って貧しくなると見境がなくなるんだな、と思います。

その間著者は最初の結婚をします。リディアという女性と結婚し、子どもも誕生します。実はこのリディアという女性は、リディア・デイヴィスのことで、彼女ものちに作家となります。

それから、ニューヨークに戻り、誰が思ってもなぜか儲かりそうもないベースボールゲームを売るという商売を始めます。しかし、電話口で「そんな儲からない、誰も買わないし、売れないものを買うのは願い下げよ」と言われはっとします。

しばらくして、妻リディアと離婚します。離婚後2か月後、父親がなくなり、いくばくかの遺産を相続します。これらの出来事は著者の人生の移行に大きく貢献します。

やがて、再度結婚し、本業も無事に出版までこぎつけます。しかし、出版社自体は倒産し、著作が日の目を見ることはありませんでした。

それから、出版エージェントをきちんと探し、ある出版社が出版したいとの連絡が入り、無事に契約にこぎつけます。2000ドルの半分を出版社と著者の折半とし、手数料をエージェントに払って、手元に900ドル残りました。

これでやっと金儲けのために書くのはやめだ、と短編を閉めています。長い長い記録でした。

もう1つ、同時多発テロの日を書いた「覚え書き」という作品は、9.11の著者一家の様子が書かれています。そりゃ当然ですが、地下鉄が止まったので中学生の娘は帰れなくなり、友人の家に泊めてもらうように手配したようです。

こういう文章を読むと、この日も多くの人の日常があるんだな、と感じます。トーコもこの事件を久米宏の「ニュースステーション」で見ていましたけど、当時の小学生にとっても十分衝撃的な事件でした。

余談ですが、今年で同時多発テロ事件は20年経過し、東日本大震災から10年です。2021年現在コロナ渦真っ只中です。

「事実は小説よりも奇なり」とよく言いますが、著者の「事実」の不思議をつづったエッセイです。ちなみにですが、原書もないようです。

 

■最後に

原書もない日本オリジナルのエッセイ集です。作家の売れるまでと日米の出版までの流れの違いがよくわかります。

「事実は小説よりも奇なり」といいますが、本当に奇なりのエッセイたちが詰まっています。

 

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