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【運命が与えるもの】395.『第五の山』著:パウロ・コエーリョ

投稿日:6月 2, 2022 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、パウロ・コエーリョの『第五の山』です。

 

■あらすじ

指物師のエリヤは、子供のころから守護天使の声を聴き、ビジョンを見て育ちます。ある時、それらの声を王に進言するも、与えられたのは苦難でした。それから、紆余曲折を経てアクバルという街を再建しました。

旧約聖書の時代の愛と勇気と運命の獲得の物語です。

 

■作品を読んで

まずは、これまで紹介したパウロ・コエーリョ作品です。

30.『ベロニカは死ぬことにした』200.『ヴァルキリーズ』375.『賢者の視点』

375はどちらかというと、著者自身の考えをまとめたものになっています。

なんというか、圧倒されます。いろいろとパウロ・コエーリョの作品はこれまでに読んでいますが、転機を迎えたときに読むととても心強く感じます。

それと、パウロ・コエーリョの言葉をまとめたサイトがインターネット上にありますが、最も言葉が引用された作品はこの作品な気がします。

というもの、偶然にも言葉をまとめたサイトを読んでみたときに、この言葉どこかで聞いたことがあるぞと思った回数は確かに多いです。

で、本書を開くとやっぱりあったぞ、と思うことが多かったです。それくらい心を動かす言葉が詰まっています。

では、作品を見ていきましょう。

冒頭に「作者のことば」があります。そこには、「アルケミスト」で言いたかったこと、「星の巡礼」で言いたかったことに触れており、そのうえで本書のテーマをさっくりと説明しています。それを作者はこう言います。

不可避の出来事は、地球上のすべての人々の人生に、起こっているのです。ある人は立ち直り、ある人は諦めてしまいます。しかし誰でも、私たちを逆なでするような悲劇の翼を感じたことがあるはずです。

それはなぜでしょうか?この問いに答えるために、アクバルの昼と夜の中を、エリヤに導かれてゆくことにしましょう。

不可避の出来事に遭遇した時、人は様々な反応をし、ある人は乗り越えようとし、ある人は諦めます。そこには一体何の違いがあるのか。そう言って物語は始まります。

物語は、エリヤが処刑されようとするところから始まります。エリヤは何者かというと、子供のころから天使と話すことのできる予言者として認定されましたが、次第に聞こえなくなり平凡に指物師として生きていました。

そんなあるとき、久しぶりに天使の声が聞こえてきました。そのことを王に忠言しますが、王は相手にせず、王妃のイゼベルから質問にあいます。その次の日には、イゼベルによりエリヤは処刑されることになり、牢屋にぶち込まれます。

しかし、処刑される寸前に兵士がこういいます。「私にはできない。お前を殺せば、神は私に呪いをかけるだろう」と言って

その時のエリヤの心境です。

死を逃れることができるとわかったその時、死の恐怖が戻ってきた。まだ、大海を見、妻を見つけ、子供を得て、店に残してきた仕事を仕上げる可能もあるのだ。

処刑されることで死の恐怖から逃れることができます。ですが、殺されないなら追いかけられる可能性が高くなるので、死の恐怖がふたたびやってきます。ですが、一方で生きられるから生きる希望はあるのです。

シンプルな言葉ですが、いろいろな状況、意味を含んでいます。まあ、死を逃れることができる経験はなかなかないですけど。

それからエリヤは逃亡します。このままいても捕まるだけですからね。道中でカラスと話します。で、カラスはこう言います。

それはお前の修行の一部だったのだ。人は自分の運命に向って旅する時、しばしば、道を変えざるを得なくなる。または、彼の周囲の力が強すぎて、勇気が挫けてゆずらざるを得なくなることもある。それはすべて修行の一部なのだ。

…(中略)

しかし、世界や他人が自分より強く思える時でも、人は自分が望むものを見失うことはない。秘密はこれだ。降伏してはいけないということだ。

このセリフもなんとなく通り過ぎますが、こんなことって結構あると思うんです。目標や憧れがあっても、周囲の影響から変えざるを得なくなることってあると思うんです。

答えは、あきらめないこと、なんですね。

ついこの間転職したばかりのトーコの会社で自分の夢は実現できそうですが、社畜と仕事ジャンキーが恐ろしく多くいる会社でした。

夢が実現する前に自分が死ぬかもしれないと思ったので、いかに自分を保つために逃げるか、会社を利用してやるんだ、くらいがちょうどいいなあ、と思ったのでした。

このブログを書くのに再読して思ったんですが、できないんですけど、と言いながらあきらめずに仕事してやろうかと思いました。ま、採用されたし。

それから、ザレパテという街にたどり着き、しばらくしてアクバルという街にたどり着きます。やもめ女とその息子とそこで何か月も住み続けます。しかしイスラエル人のエリヤは、息子を殺したというあらぬ嫌疑をかけられ、第五の山に送られます。

ところが、そこで天使の声を聴きます。またか。すごいタイミングで聞きますわ。天使は、やもめ女の息子のために祈ること、そしてこういいます。

誰でも、自分の仕事に疑問を持ち、時にはそれを捨てる権利を持っている。しかし、人がしてはならないことは、その仕事を忘れることだ。自分自身に疑いを抱かぬ者は尊敬に値しない。なぜなら、自分の能力をまったく疑わずに信ずる時、人は傲慢という罪を犯しているからだ。優柔不断な時を味わう者は幸いなり。

自分は出来ると思った瞬間から、人は傲慢になります。中には大したレベルでもないのに、本人は勘違いしてか傲慢になる人もいます。まあ、意外とすごい人ほど傲慢な人はいないんですけどね。

下山し、天使の言葉を伝え、処刑までの猶予を与えられます。その足でやもめ女の息子のもとへ行き、彼のために祈ったところ、彼は目を覚ましました。

第2部に行きます。なにやら戦争の足音が聞こえ、息子をよみがえらせたで有名になったエリヤを知事が取り込みます。

また、同時にやもめ女のことを少しずつ愛し始めますし、やもめ女もまたエリヤのことを愛し始めます。

しかし、アッシリアと戦争がはじまり、エリヤはやもめ女と息子とともに荷物を持ってアクバルの街を出てイスラエルに向かうことにしました。が、天使の声によって、もといた場所に引き返すことになりました。

そこで、攻撃に遭い、アクバルは破壊されます。しかも、やもめ女も家のがれきに挟まれて死んでしまいます。そのため、エリヤと息子の2人で生きることになります。

1度街から逃げ、ふたたびアクバルに戻ります。街の再建を始めるためです。エリヤは街の人間を集め、一人ひとりができることをするように諭します。老人たちには、こう言います。

「あなたは夢を持ったことがないのです。そしてそれが、あなたの若さが隠れてしまった原因です。今こそ、若さをもう一度発見する時です。なぜなら、私たちには、アクバルの再建という共通の夢があるからです。」

「不可能なことを、どうすればできるのだ?」

「情熱で」

夢を持ったことのない人が若いわけはないです。心は若くないですから。それをするためには、情熱を持つことです。情熱を失いそうになったらこの言葉に立ち返りたいです。今日が一番若いって言葉が身に沁みます。

そうして、アクバルは再建しました。エリヤはいつの間にか知事のようなポジションになりました。

物語のラストで、エリヤは少年(息子)とともに第五の山に行きます。その後、エリヤはイスラエルに向けて旅立ちます。もうアクバルはエリヤがいなくても大丈夫。

エリヤは少年に自分が去ることについてこういいます。

人生の一つの段階が終った時を知ることは、いつでも必要なのだ。必要がなくなったのに、それにいつまでもしがみついていると、君は人生の喜びと人生の意味を失うだろう。そして、神によって正気づかされることになるのだ。

神が選んだものだけには結構厳しいようです。多くの人にもそんなことはあると思います。ここでしがみついてはいけない、潔く去らなければならないとき。

しがみつくことで失うものがあまりにも大きい時、その時が1つの段階が終った時なのです。なんか、すげえわかる。あったんでね、そんなこと。

こうして、エリヤはイスラエルに戻り内乱に巻き込まれるも、生涯の最後まで山の中に住み続けました。

以上が旧約聖書をもとにした、再建の物語でした。

 

■最後に

かなり長くなってしまいましたが、以上が旧約聖書上は2,3の出来事から着想を得た再建の物語です。

勇気づけられる言葉がたくさん詰まっています。人生で結構助けてくれることでしょう。

 

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  1. […] 30.『ベロニカは死ぬことにした』、200.『ヴァルキリーズ』、375.『賢者の視点』、395.『第五の山』 […]

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