こんばんわ、トーコです。
今日は、桜庭一樹の『伏 贋作・里見八犬伝』です。
■あらすじ
浜路は猟師の女の子で、江戸にいる兄とともに、伏という犬の血が流れるものを狩ることを生業としている。
伏による凶悪事件が発生しているので、幕府は懸賞金をかけて追いかけていた。
■作品を読んで
いい意味でも、悪い意味でも「贋作」です。
なぜかというと、この作品のモチーフになっている「里見八犬伝」という話のエッセンスをかいつまんで、著者流にアレンジしています。
なんというか、本当の「里見八犬伝」を読んだことがあり、おぼろげながら記憶があるので、本家の「里見八犬伝」とはまた違うぞ、とは突っこんでおきたいです。
本家は、伏の伝説が違う形で扱われているので。
登場人物たちもそんなに悪者でもないですし、むしろけっこうヒーロー寄りだった気がします。
物語では、本家「里見八犬伝」の作者滝沢馬琴の息子冥土の書く「里見八犬伝」贋作が登場します。
それを聞き終えた後の浜路の感想は、
いつまでもぐるぐる回る、紫色した、でっかい独楽とちっちゃい独楽が、あっちこっちにひとつずつあるみたいだなぁ
本家と贋作には近いようで遠い、交わるようで交わらない何かがあります。
なんだか、独楽の距離感と同じくらい本家と贋作の距離感を感じさせます。
この作品は、浜路と兄の道節が伏狩りで生きていくストーリーと、「里見八犬伝」でおなじみの伏姫伝説をまとめる男の語りの2重構造になっています。
伏姫の描かれ方も本家の「里見八犬伝」とは違うものになっています。というか、伏姫に弟っていたっけ、と首をかしげましたが。
浜路が伏を狩るシーンはなかなか迫力があります。
ちっちゃな女の子ですけど、かなりすばしっこいので、読んでいる側としては、「おお、すげえ」と感嘆の声を上げてしまいます。
また、しっかりしていない兄と、字は読めないけど金銭等のことにはしっかりしている浜路のやりとりはなかなかユーモアがあふれています。
あとは、兄妹を見守る周囲の人々の優しさや、兄妹の伏狩りを伝えるストーカーのような冥土と様々な登場人物たちもいます。
終盤で浜路と伏が心を通わせるシーンでは、伏だって人間のこころを持っているんだなと思わせます。
■最後に
「里見八犬伝」を現代風にアレンジしたというより、「里見八犬伝」をモチーフにした新たな物語りです。
ちっちゃな女の子のしっかりぶりと、伏狩りを行うときの迫力さは目を見張るものがあります。
エンターテイメント的にもすごく面白い作品です。