ある読書好きの女子が綴るブック記録

このサイトは年間100冊の本を読む本の虫の女子がこれから読書をしたい人向けに役に立つ情報を提供できればなと思い、発信しているブログです。

小説 短編集

【何とも言えない日常】199.「どこから行っても遠い町」著:川上弘美

投稿日:11月 6, 2019 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、川上弘美の「どこから行っても遠い町」です。

どこから行っても遠い町 (新潮文庫)

 

■あらすじ

都心から私鉄でも地下鉄でも20分ほどの小さな商店街を舞台にした連作短編集です。

はた目からはどこにでもいる普通の人にも、様々な事情があるようです。

 

■作品を読んで

何なんでしょう、この言葉にできない感じは。

日常を淡々と描いているように見えて、そんなに飽きもせず読めるのは。

あとがきにも書かれていますが、この作品は思いがけないざらりとした感触が感じられます。

人の人生には、見えないところでの苦しみや悲しみ、見てはいけないもの、表に見えないものでも構成されています。

だから、「どこから行っても遠い」町なのでしょうね。

 

物語は、魚屋に住む2人のおっさんからスタートします。2人の関係は亡くなった妻の浮気相手と夫です。

種明かしをすれば、その設定はこの短編集を通してどこかでリフレインされています。

当事者から聞いた話だったり、商店街という独特のコミュニティの中の噂話だったり、昔の記憶から思い出したりと、様々な形でリフレインされます。

最後には亡くなった妻が出てくるのですがね。

妻が出てくることで、魚屋さんの2人のおっさんたちの物語が完結します。

まさかの当事者の登場という形をとって。

あとがきの言葉を借りれば、「懐かしい死者によって」完結へと導いています。

物語が完結したことによって、この短編集がとっ散らからないものとなったようです。

すべて読み終わった後にもう1度最初の短編を読みたくなります。

なんか再読をすることで、物語が本当の意味で完結します。

 

あと、もう1つすごいポイントは読んでいくうちに普通ってなんだっていう気分になります。

あまりにも淡々と描かれている日常が、本当に普通なのかとかいろいろな疑問がよぎります。

変な魔法にかけられて、迷宮に迷い込んだようにうまく動けないような気分になります。

当たり前と思っていた境界線がよくわからなくなってきます。

同時にそれはきっとですが、このごく平凡な人が抱えるちょっとした闇をさらっと描いているのに、逆に違和感を持ちます。

というか、さらっと描きすぎで気持ち悪いです。

ちょっとした闇でもどこかドラマチックに書きそうなのですが、本当にフツーに描いています。

技法的には、これはなかなか難しいです。

なんかの文学賞での作品の傾向で、出来損ないの村上春樹と川上弘美が多い、というコメントを聞いたことがあるのですが、これはそうかもしれません。

川上弘美さんの作品を初めて読みましたが、この人本当にすごいです。

普通が普通でないことをさりげなく描くことができるって、すごすぎます。

 

■最後に

この作品はストーリーもさることながら、当たり前の普通がなんだかわからなくなってくる魔法が遺憾なく発揮されています。

それでいて、日常のざらっとした感触が静かに伝わってきます。

すごく魔力のある作品です。

 

-小説, , 短編集

執筆者:


comment

関連記事

【爆笑古典指南】357.『平安女子は、みんな必死で恋してた』著:イザベラ・ディオニシオ

こんばんわ、トーコです。 今日は、イザベラ・ディオニシオの『平安女子は、みんな必死で恋してた』です。     ■あらすじ この作品は、古典大好きなイタリア人の著者が、東洋経済オンラインで連載 …

【贋作というより創作】172.『伏』著:桜庭一樹

こんばんわ、トーコです。 今日は、桜庭一樹の『伏 贋作・里見八犬伝』です。 伏 贋作・里見八犬伝 (文春文庫)   ■あらすじ 浜路は猟師の女の子で、江戸にいる兄とともに、伏という犬の血が流 …

【帰ってきた続編】404.『すべての月、すべての年』著:ルシア・ベルリン

こんばんわ、トーコです。 今日は、ルシア・ベルリンの『すべての月、すべての年』です。   ■あらすじ あなたは、以前出版された『掃除婦のための手引書』という短編集をご存知でしょうか。発売され …

【再生の物語】297.『雪のなまえ』著:村山由佳

こんばんわ、トーコです。 今日は、村山由佳の『雪のなまえ』です。 雪のなまえ   ■あらすじ 雪乃は東京に住む小学5年生。しかし、無視されている友達に話しただけで、いじめにあい、学校に行けな …

no image

【無戸籍とは】10.『無戸籍の日本人』 著:井戸まさえ

こんばんは、トーコです。 さて、今回で10冊目の紹介です。つたない文章ですが読んでいただきありがとうございます。 これからもまだまだ紹介しますので、どうぞよろしくお願いします。 記念する10冊目は、井 …