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小説

【母の声】104.「ジャッカ・ドフニ」著:津島佑子

投稿日:4月 14, 2018 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、津島佑子の「ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語」です。

ジャッカ・ドフニ 上 海の記憶の物語 (集英社文庫) ジャッカ・ドフニ 下 海の記憶の物語 (集英社文庫)

 

■あらすじ

時代はキリシタンの大弾圧時代。

アイヌ人の母と日本人の父との間に生まれたチカップは、兄と慕うジュリアンとともにキリスト教を信仰している。

2人は弾圧から逃れるため、またジュリアンが宣教師になるためにマカオに向かうため、海を越える。

また、時は現代に戻り、1人の女性がかつて訪れたアイヌの地を三度歩く。

1度目は若かりし頃に1人で、2度目は亡くなった息子とともに、3度目は震災後の後。

様々な声が聞こえてくる、著者にとっての最後の作品でもある。

 

■作品を読んで

正直に感想を一言でと言われると、答えきれません。なんというか、話自体は複雑なわけではないのです。

ただ、すごく多層的になっているので、それがかなり物語に得も言われぬ深さを生んでいるのだと思います。

チカップ(以下チカ)はキリシタンとなり、兄と慕うジュリアンとともに、マカオに向かいます。当時のマカオはキリシタン弾圧にから逃れてきた日本人がたくさんいたそうです。

やがて、マカオに住む日本人が追い出される日が来ました。チカはジュリアンと離れたくはありませんでしたが、再び海を越えてジャカルタに逃れました。

日本から逃れるときも、マカオに、ジャカルタに暮らしても、アイヌの母が幼いころに歌っていた子守歌を頼りに、支えにして生きてきました。

ジャカルタからはおそらく日本に宣教師となって戻ったジュリアン宛に手紙を書きました。

この時代の手紙というのはものすごく届くか届かないかわからない、非常に賭けの要素の高いものでした。マカオで一緒に暮らしていたカタリナからの手紙が1年かかって届く時代ですから。

ジュリアンが生きているのか、わからない。でも、チカは生きている。

近況を伝えたくて、衝動的に書いている部分も多々ありますが。

チカは故郷を想って、想いすぎたか、子供たちをアイヌ探検船に乗せて行かせたこともありましたが。

そんなチカの一生を描いた物語と、現代に生きる女性がアイヌを通して呼応しています。

現代に生きる女性の描写は「あなた」と二人称になっています。それがすごくレイヤを厚くしているんだなと思います。

そして、何が残念って、この方すでに亡くなっているので、これ以上作品を見ることができないことです。

さらに言えば、この人太宰治の実の娘でもあります。とはいえ、1歳の時には父親は亡くなっているのでほぼ記憶はなかったそうです。

それにしても、なんというか、文字では伝えきれない不思議な世界です。

 

■最後に

あまりうまく感想を伝えきれてないのですが、本当に深いところで、呼応する不思議な物語です。

このような作品にはあまり出会えない気がします。

もうすぐ長期休みが近づきますが、思い立った時に読破してはいかがでしょう。

 

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