こんばんわ、トーコです。
今日は、岸本佐知子編訳の「変愛小説集」です。
■あらすじ
愛を極めるとどうなるか。答えは、限りなく変に近づきます。
変な愛ながらも純粋で狂おしい作品たちが揃っています。
■作品を読んで
選者の岸本佐知子さんはルシア・ベルリンの「掃除婦のための手引書」という本の翻訳者としてもおなじみです。
結構「掃除婦のための手引書」が話題になっていたので、他にもどんな作品を訳しているのだろうと気になって手に取った本。
ですが、いい意味で期待を裏切られます。
のっけから、どんな展開になるのか気になります。「五月」という話です。
あのね。わたし、木に恋してしまった。どうしようもなかったの。花がいっぱいに咲いていて。
…、!?。感嘆符しか書きませんでしたが、そんな感じです。
どうツッコめばいいかわからないのですが、とりあえず進みます。
木をじっと見過ぎて、家の人から怒られて警察に取り押さえられたり。そのあたりは日本とは違うが。
好きが高じてもはや危ない人になっていくわたし。
そんなわたしの様子を見たあなたは、なんとある日わたしが好きになった木を自宅リビングに植えています。
木を植えているころには、木に夢中になるあなたとそれに対して複雑な感情を持つわたし。
わたしの木への嫉妬が高じたのか、自宅リビングに植えている。とにかくすごい展開。
他にも、妹の持っているバービー人形に恋する少年の話(「リアル・ドール」)、自分の恋人が乗っているはずの飛行船をどこまでも追いかける男の話(「ブルーヨーデル」)などが収録されています。
編者も言ってますが、どの話も常軌を逸した設定ですが、常軌を逸しているからこそ余計に愛をまざまざと見せてくれるようです。
常軌を逸しているからこそ、逆に純愛が浮き上がってくる。なんだろう、この周り回ってたどり着く感じ。もはや笑いも出てくる。
最後に収録されてる「母たちの島」という作品は、桐野夏生の「東京島」を彷彿させます。
「東京島」は無人島に女1人、男30人くらいしかいなくて、男がみな1人の女を狙う話だったと記憶しています。
何がすごいって、男って絶望的な状況に追い込まれた時立ち直れるか、立ち直れないかがはっきりするのに、女はとにかくしぶとく生きること。
大学時代に読んだせいか、結構強烈に残ってます。
「母たちの島」は戦争中男が兵士として取られ、女だけが残された島で敵国からの男がやってきて、お互いを好きになってやがてわたしたちが生まれた。
島の中では男の子と女の子が接触しないよう、島の反対側で分けて暮らした。
なんだろう、母たちの誤りを犯さないようにするためになんとまあ大掛かりな…。
15歳になったある時、女の子たちが住んでいる側で1人の男が漂流してきた。
わたしともう1人は「父だ」と思い、懸命に看護します。けど、他の女の子たちは愛し合っています。
それが母たちにばれたとき、漂流してきた男は抹殺されてしまいました。
けれども、わたしともう1人以外はお腹が大きくなり、しばらくしてから兄弟でいっぱいになることになる。ま、その頃にはわたしともう1人の子は島から脱出する予定といところで物語は閉じます。
なんか、この作品は他の変愛からちょっと軸がそれたなあと思うのですが、人間の本質をまざまざと見せつけられます。
好きが高じて変となり、やがて純愛に見えてくるから不思議です。
■最後に
外国文学を中心に変愛をテーマに選んだ短編集です。
ここまで来ると、変を通り越して純粋な愛情が見えてくるから不思議です。
なんだか、登場人物たちが憎めず、いとおしくなる作品です。
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