こんばんわ、トーコです。
今日は、江國香織の「彼女たちの場合は」です。
■あらすじ
17歳の逸佳と14歳の礼那は従姉妹同士。
ある日「家出ではないので心配しないでね」という書置きを残して旅に出ます。
ニューヨークからスタートし、アメリカ中を見て回ります。
■作品を読んで
これは一気に読みたくなる本です。本当に続きがすごく気になって若干手がつかなくなります。
1番ほっとしたのは、冬休み期間だったことですかね。
普段の読書時間は会社の昼休みに読んでいるので、続きが気になって午後仕事にならなかったような気がします。
さて戻りましょう。
この作品は、17歳の逸佳と14歳の礼那の2人の旅と、旅を見守る大人たちの両軸で構成されています。
何が面白いって、逸佳の父と礼那の父のリアクションがものすごく対照的なことでしょうか。
礼那の父潤はすごく日本人的なリアクションをとります。必死に捜索し、母親に連絡があったときも「なんで旅をやめさせないだ」とキレたり。挙句はインターネット上で娘の写真を載せて捜索したりと必死です。
一方の逸佳の父は若いころ自分も大学を休学してバックパッカーをやっていたおかげか、旅に出たという知らせを受けても応援し、クレジットカードに十分な資金を入れておきます。
さらには、ポストカードが届いて冷蔵庫に貼っておいているというくらいですから、完全に娘の冒険を楽しんでいます。
逸佳と礼那の旅はやがて家族の在り方も変わってしまいます。どっちが変わるかは言うまでもないですが。
親たちはこう思っていたようですが、逸佳と礼那の旅は読んでいてワクワクするし、ハラハラするし、どうなるのやらと思いやられます。
それでも2人で見るアメリカは広く、想像していた世界と違うこともあるけど、実際に見てみないとわからないことだらけです。
この描写は読んでいる側も2人と一緒に旅をしているような気になってしまうほどリアルです。
この2人のコンビもなかなかに絶妙な組み合わせだなと思います。
正直なことを言えば、終わりが近づく頃は「まだもっと続いてほしい」と謎の感情がありました。
何かのインタビューで著者も語っていますが、目的のない旅ができるくらい時間が余っている。だけど大人になるとそれができない。
この著者の言葉には同感です。
確かに目的のない旅ができるころって、すごく限られている気がします。おそらく普通の会社員だとほぼできないと言っても過言ではないです。
だからこそ、目的のない旅ができる時期が過ぎ去った人間から言わせれば、逸佳と礼那の旅はうらやましく、いとおしく思うのです。
ましてや、2020年12月現在旅すらできなくなっています。目的のない旅が余計できなくなっている今、逸佳と礼那の旅は本当にうらやましいのです。
この作品を読んでいて思い出したのは、「神様のボート」という作品です。
以前紹介していますので、リンクを貼ります。149.「神様のボート」
この作品は母と娘が主人公なのですが、著者の旅物語といわれるとなぜかこれを思い出すのです。
旅をしているという以外そんなに共通点がないのですがね。
■最後に
10代の2人によるロードノベルです。すごく新鮮な小説です。読み始めると一気に読めてしまいますし、すごく続きが気になります。
コロナ時代に2人の旅は本当にまぶしく映ります。
2人だけでなく、あたかも読者側も旅に出ているような気持ちにさせてくれます。
[…] 1.『金平糖の降るところ』、64.『なかなか暮れない夏の夕暮れ』、149.『神様のボート』、195.『旅ドロップ』、208.『彼女たちの場合は』、254.『去年の雪』 […]
[…] あと、まさかの208.『彼女たちの場合は』です。選ばれた理由は、おそらく今年文庫化されたからでしょうかね。 […]