こんばんわ、トーコです。
今日は、石牟礼道子の『椿の海の記』です。
■あらすじ
4歳のみっちん(著者のこと)は、自分の目の前の日常を見ている。
心がおかしくなっている祖母おもかさま、父、母、祖父、叔母、近所の人。
4歳の幼子の目に映る世界とはどんなものだろう。
■作品を読んで
幼子の目線から自然や、幼子が知りえる限りの家族のことや近所の人や出来事が記されています。
冒頭の短編で、水俣の豊饒な海が描かれています。
読者の多くは著者の名前は聞いたことがあるかと思います。著者は、「苦海浄土」という水俣病患者の声をまとめた方です。
水俣湾と聞いて、多くの方は水俣病の原因はチッソという会社が水銀を水俣湾に垂れ流したことで、水俣湾の水銀まみれの魚を食べた多くの住民が公害病に苦しんだという歴史を思い出すことでしょう。
その海が豊饒だった時代を描いている記述に驚きを隠しきれませんでした。豊饒な海だったころの事実があったことに。
水俣という場所がすごく自然豊かで、昔の人は自然とうまく共存していたこと。
魚、貝、海苔など、海の幸は本当に豊かだったようです。
それは幼子の目にも映っています。というか、映っていなかったらこんな文章は書けませんがね。
ただ、やっぱり水俣病やチッソに話が及ぶときは4歳のみっちんの目ではないです。
現実を淡々と語る石牟礼道子がいます。読んでいるといきなりリズムが変わります。
それにしても、4歳の目はすごいです。家族についての状況をうまく4歳ながらに見ています。
祖父の事業が傾き、家を引越したこと。精神がおかしくなった祖母のおもかさま、父、母、叔母、弟といった家族。
近所の店のおばさん、近所の人から淫売と呼ばれ蔑まれた置屋の遊女たち。
4歳を取り囲む大人のラインナップとしてはなかなかに濃ゆいですが、多くの人に囲まれていました。
中でも、徘徊癖のあるおもかさまを探しに行くのを4歳ながらにやっていたそうです。
おもかさまに近所の悪ガキが石を投げたとき、みっちんは後ろにいました。
淫売と蔑まされていた遊女とも仲良くなって髪を結ったり、おしろいを塗ってもらったりしていました。
この幼い日の体験がのちに生きてきます。
様々なバックボーンを持つ人との共存は、のちの「苦海浄土」に遺憾なく発揮されます。
それに自分自身の経験としてもプラスになります。
なんというか、約100年近く昔って、確かに今よりも物がなくて、情報がなくて、貧しくてという時代ではあります。
が、今以上に近所の人や自然との結びつきが深いです。
しかも一般家庭で普通に餡子を炊くとか、すごいなあ。そんな記述もあった気がする。
人間らしくてなんかうらやましいです。
■最後に
4歳の目から見た世界は、のちの石牟礼道子の芽を見ます。
水俣の海がこんなにも豊かだった時代があったこと、身近な世界が今以上身近なこと。
世界はこんなにも広がっていることを知ることができます。
[…] 石牟礼道子といえば、この本です。よかったらどうぞ。201.「椿の海の記」。この作品は、水俣が公害にやられる前のとても豊饒な世界を描いています。 […]
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