こんばんわ、トーコです。
今日は、ルシア・ベルリンの『掃除婦のための手引書』です。
■あらすじ
表題作の「掃除婦のための手引書」ではひたすらバスに乗り、家政婦として様々なお宅に通う。
歯科医である祖父の歯の手術に手伝ったり、アルコール依存症の女を描く話、刑務所で創作を教えたり。
様々な作品があります。
■作品を読んで
こういった翻訳本の割には、一時話題になった本です。方々で結構話題になり、売れていたように思います。
この作品は、従来の翻訳本とは違い、1篇の作品の長さが非常に短い作品やちょっと長い作品などの様々な長さの作品があり、翻訳本に慣れていない人にも非常にとっつきやすいなと思いました。
だから話題になり、多くの人が知ることになったのかと。
翻訳本って日本の作品と違ってストーリー自体はわかりにくく、抽象的な描かれ方をする傾向があるようにトーコは思います。
そんな中話題になり売れたのですから、ある意味すごいです。
トーコは図書館で予約したのですが、随分と待ちました。受け取るころには、そういえばリクエストしたことをすっかり忘れている状態でした。
話を作品に戻しましょう。この短編集のベースは、著者の人生そのものです。
お嬢様として使用人のいた暮らしを送っていた少女時代、歯科医の祖父の存在も実在の人物、アルコール依存症に苦しんでいたことも実話。
シングルマザーで子供4人抱えながら掃除婦、高校教師など様々な仕事をしていたり、刑務所での創作を教える仕事も本当。
それを題材に作品を創作しています。この人生たどるだけでもかなり衝撃的。これ、本当に同じ人物がたどったの、とツッコミたくなります。にわかに信じられません。
それでもこの短編から、それだけ多彩で、視点や見方を変えるだけで様々な魅力が浮かび上がってきます。
アメリカの数多くの作家に影響を与え続けてきた訳が分かります。
いち早く注目した、リディア・デイヴィスはこういいます。
先の展開がなに一つ読めない。それでいてすべては自然で、真実味があり、こちらの心理と感情の予想を裏切らない。
個人的には、「どうにもならない」という作品が好きです。これも5ページ程度の作品です。
アルコール依存症に苦しむ女が、酒が切れて朝まで持たず、夜明け前に酒を手に入れて朝を迎えるという話です。
なんというか、情景がいやでも浮かんできます。同時にこんな体験絶対したかないわ、と思わせます。
酒を手に入れるシーンは、読んでいるこっちまでみじめな気持ちにさせられます。読者の感情移入を促されているようです。
最後に、13歳の息子がママの財布とキーを管理しており、しまいには「ママは病院に行かないと治らないよ」というセリフははっとさせられます。
13歳の息子の方がアルコール依存症の怖さを分かっている気がします。13歳の方が客観的に状況分析ができてる…。
非常に短い作品ながらも重い印象を残します。
「沈黙」という作品も印象深いです。
著者の叔父さんとの交流を描いた作品なのですが、なぜあのとき叔父さんが車を止めなかったのだろうと幼心に疑問に思いますが、次第にわかってきます。この車を止めなかった描写も臨場感あふれています。
叔父さんもアルコール依存症に苦しんでいました。なんか、著者の母方の家族は祖母を除き祖父、母、叔父がアル中だったようです。それもすごい話。
先ほどの話からも分かる通り、著者もアルコール依存症になっていたのです。短編の最後にさらっと書かれていたので、予想はしていただが、あっけにとられます。
この作品がこうして無事多くの人に読まれたわけを話します。
リディア・デイヴィスの文章からルシア・ベルリンを発掘したのが、本作品の訳者岸本佐知子さんです。
訳者も初めて読んだときに、雷に打たれたように打ちのめされたようです。それから手に入れられる範囲でルシア・ベルリンの作品を読んだのだとか。こういった言葉を述べています。
むきだしの言葉、魂から直接つかみとってきたような言葉を、とにかく読んで、揺さぶられてください
心を揺さぶられる作品が非常に多いです。
■最後に
埋もれていた唯一無二の作家の作品集です。臨場感あふれる描写は感情移入を促し、心を揺さぶられます。
話題になった理由が分かりますし、それだけの価値がある作品です。
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