こんばんは、トーコです。
今日は、『うたわない女はいない 働く三十六歌仙』です。
■あらすじ
女性歌人たちが、様々な職業に従事する傍らで読んでいる短歌、エッセイを収録した本。
賞の審査員である俵万智と吉澤嘉代子の対談も収録。
■作品を読んで
表紙がとても印象的で、なんというかいろいろと象徴的な表紙です。描かれているのは、キーボードで打つ手、くぎ打ち機を持つ手、化粧に、下着。
逆を言えば、女って、いろいろなものを武器にしながら戦えるんだな、って思いました。女に生まれてよかった。
この作品は、注目の女性歌人が作った短歌とエッセイで構成されています。女性歌人も36人いらっしゃるので、意外と多いんだという印象があります。まあ、短歌の世界を知らんだけでしょうが。
それでは作品に行きましょう。
まず、働くの短歌から。なんか気持ちがわかる…という短歌が多いです。同じ女だからでしょうか。
1番最初の竹中優子さんという歌人のエッセイの冒頭にこう書かれています。
私はよく働く辛さを短歌にする。いつも他人が羨ましく、自分は損をしている気がする。その気持ちを濁して自分を淡く保ち、社会の中で価値のない人間とみなされないように、一生懸命演じている。
おお、だから彼女の作る短歌はかなり職場の様子が淡々と表現されているんだなあ、と思いました。しかも地味に同意ができる…。
先ほどの引用のあとに、本当は誰かに必要とされていたいと記します。「人間は社会的動物」といったのは、アリストテレス。けど、この言葉が結構似合うんだな…。
とはいえ、エッセイの最後には「この一瞬を見逃さずに言葉にしたいと思った。そうすることが私の仕事と信じて、今日も言葉を書いている」といいます。
この著者ふわふわしているのかな、と思いきや、妙に鋭いことを言うので、きっとこの人は当たり前なのかもしれませんが、短歌に対しては超が付くほど真剣で真面目なプロなんだなと思わせます。
はー、こういう方の作品をきちんと売る本屋になりたいです。
歌人で医師の塚田千束(ちづか)さんという方のエッセイに、こう書かれていました。
「医療というのはすべて侵害行為です」
大学一年生のなにかの授業でそう聞いたことを思い出す。いや、すこしちがう。常に頭にちらついている。
(略)
私は常に誰かを傷つけているということを忘れない。
歌人をしながら、医者をしている人の歌だからという言い方は失礼なのでしょう。なんとなく、歌に冷たさがありつつも、ちょっと優しい。
けど、白衣や回診、カルテという言葉からきっと医療従事者なんだなということがよくわかる歌です。
エッセイの末尾には、「私の判断がそのままその人の人生に影響を与えるのだと、考えながら病棟に向かう」と書かれているので、この人は歌に対しても、普段の自分の仕事に対しても真剣なんだなということがわかります。
こんなお医者さんに当たれば、きっとラッキーな気がします。
本多真弓さんという歌人の短歌です。
AIにやつてもらへば一秒もかからぬ作業 一日かけて
文語というか平安時代のような書き方をしていると思えば、歌はまさかのAIが登場した超今どきな内容。
詠みながら、この人はきっとオフィス勤めなんだろうな、ということが頭をよぎります。
エッセイを読めば、この人はあと2年で定年を迎える勤め人。1987年ということは、男女雇用機会均等法の1期か2期くらいかと思われます。
この方も面接官から「25歳が定年だよ」といわれ、「そのあとどうやって生きていけばいいんですか」と聞いて退室したことがエッセイの冒頭に係れています。
どうやって生きていけばって言いたくなるのはその通りだよ、と令和に生きるわれらは思います。が、1987年だと女性はさっさと結婚して家庭に入る時代です。
社会はだいぶ変わりましたね。今、結婚しても働かないとやっていけないんですけど、っていう声が当然のごとく聞こえてきます。
そんな先人たちの苦労があって、今こうして女性たちが当たり前に働く世の中が来たんだなと感慨深いです。ありがとうございますよ。
最後に、あと2年で定年という中で、詠んだ短歌。
定年はした、した、したと近づきぬ DXの波とほきまま
若い者からすれば定年よりもDXのほうが目先の話なのですが、あと2年の著者からすれば定年のほうが先でDXとの距離感を詠んでいます。
きっと大部分のお年寄り(50代後半)はこんな感じなんでしょうね。若者が勝手に対応するしかないですね、というのがよくわかります。
なんだろう、この方の詠む短歌はちょっと風景が近いようで、遠すぎない感じが好きですね。
最後に川島結佳子さんという方の短歌。損害保険の調査会社に派遣スタッフとして働いているそうです。
なんか、この短歌が好きですね。
口内で和三盆じわっと溶かしつつダウンロードが終わるのを待つ
なんだか、すごく気持ちのわかる短歌です。データのダウンロードって意外と時間がかかるから、暇つぶしじゃないけどこういうことをしたくなるからすごくわかる。
最後に、この作品は「おしごと小町短歌大賞」からさまざまな仕事の現場から「今」を映し出した短歌が4574首届いた中から、賞を選んでいったそうです。
ちなみに、4574首とは、選考委員を務めた俵万智曰く、万葉集と同じ数が集まったそうです。
選考委員は歌人の俵万智、シンガーソングライターの吉澤嘉代子。余談ですが、吉澤嘉代子も俵万智の『サラダ記念日』を結構読んだそうです。
さて、このお二方の目に留まった歌は一体どれでしょうかね。それは読んでからのお楽しみ。
■最後に
歌人の傍らで、従事しているさまざまな職業の悲哀やちょっとした幸せ、目線をずらすとこんな風景が見えるのか等、さまざまな発見があります。
純粋に短歌っておもしろいな、と改めて感じます。