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小説

【だましだまされ】341.『カード師』著:中村文則

投稿日:1月 15, 2022 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、中村文則の『カード師』です。

カード師

 

■あらすじ

占いを信じ切れていない占い師の「僕」は、ある資産家の顧問占い師になることになる。その資産家は、自分をだましにかかろうとする人間を殺してしまうこともいとわない人物だった…。

 

■作品を読んで

まず、これまでに紹介した中村文則作品を。

174.『惑いの森』220.『私の消滅』244.『逃亡者』

前回紹介した、340『雷神』著:道尾秀介 と同じく、こちらも若干のミステリーの入ったかなりハラハラする展開で物語はどんどん動いていきます。

それにしても、中村文則作品初期に感じたエグさはどんどんなくなっています。どんどん読みやすくなっています。不思議です。

個人的には読後の「うげー。」という感じから現実世界に戻るためのタイムログが辛いので、読みやすい方がありがたいです。

この理由を共感できた方は連絡をください。

そして、今回の作品は朝日新聞で連載されていたので、余計に読みやすいのでしょう。エグいものはそんなに出せないですからね…。

それでは、本編に移りましょう。

占いを信じ切れていないタロットカード占い師の「僕」は、占いだけでなく違法ポーカー賭博のディーラーもやっていました。

この要所要所で入ってくるポーカーゲームの展開の緊張の場面はかなり臨場感があります。

正直に言うと、かなり心理描写も細かいので、これは誰もがのめりこむ可能性が高いものなので絶対に手を出してはいけないんだな、と思います。というか学習します。だって、「僕」もこう言っちゃているくらいですからね。

賭博にマニュアルがあるとしたら、恐らく第一条にはこうある。賭博をしないこと。その魔力を知らずに人生を終えること。

乗ったら最後。自分を超えた押す力と惹き込まれる力があって、抗えないので。それくらいディーラーで見ている方からしても怖いのです。

そんな時に、謎の組織に属する英子という女から、資産家佐藤の顧問占い師にならないか、という誘いがやってきます。

「僕」は全く気乗りしていないですが、佐藤のもとに行くことにします。

佐藤は、開口1番にこういいます。

私がなぜ占いを要求するのか。それは占われ、ずばり当たる瞬間を味わうためなんだ。その瞬間には快楽がある。この世界の隠された摂理に触れた瞬間。運命というものがやはりあるのだと感じる瞬間。神のみが知る未来の先を知り、神をも出し抜く感覚を味わる瞬間。つまり私が必要としているのは凡庸な占い師ではない。悪魔だよ。私は他の人間達には絶対に手に入らない悪魔を探し続けている。

占いに憑りつかれ過ぎだろう、と言いたくなるレベルです。さらにこの後、当たらなかったら殺すかも的なことを言います。

「僕」は思います。こりゃ、イカれている。この日は佐藤を占いの結果を伝え、逃げます。とんでもないのにあたってしまったのですからね。

それからしばらくして、周囲の人間が不思議な行動をとり始めます。英子から何人もの担当者がかかわってきたり、わけがわかりません。

そんな時に、英子の同僚の男から、ある人物に会うよう言いつけられます。彼の会社は佐藤の会社に買収され、乗っ取られようとされています。

彼の現在の状況は、すべて周囲のせいですと、「僕」は彼に言います。そして、同時にこう思います。

男の目がまた揺れた。それなりに苦労はしてきたようだ。人は基本的に、自分を褒める相手を望む。

もう自分では、何も決められるようにしてあげよう。僕は内面で呟く。誰かを頼らなければ、もう生きていけないようにしてあげよう。僕はあなたの、自由意志の領域に入り込む。自由意志を、自ら捨てる快楽をあげよう。とても気持ちいいのだ。人間はそうなると。

何の気なしに書かれていますが、もうここまで来る十分怖いんですけど。

追い詰められた時に人は何かにすがってしまうのですが、この男も完全に追い詰められているので、これ受け入れられるんですね。

そういえば、中島知子が16年ぶりに占い師の洗脳から足を洗って公の場(正確には在京メディア)帰ってきたなんて言う話がありましたね。

彼女もきっと人生の岐路で追い詰められて占い師にすがったのではないでしょうかね。原理は恐らく上記なのでしょう。そう考えた方が合点が行く気がします。何はともあれ戻ってくることができて良かったけど。

立て続けに英子の同僚から依頼が来るのを不審に思い、「僕」は英子に会いに行きます。

英子は会社を辞めることを伝え、こう言い残します。

彼らは…、知性を持たずに、知的世界の支配権を握ろうとしている。

これは、なんというか今の世の中を映しているような言葉ですな。最近、日本の世の中そんなんばっかな気がしますよ。昔じゃありえなかったことが頻発している気が、特に政治の世界で。

しばらくして、佐藤と契約した時に佐藤からもらった髪と爪を入れた袋が盗まれてしまい、取り返すために竹下という女性を助けるべくポーカー賭博場に行きます。

そこでポーカーゲームに参加する羽目になります。ここで、「僕」はさすがだね、という行動をとります。

初めて参加したゲームでだいぶ儲かる寸前まで行ってゲームに負けます。そこからしばらくは、人間観察に徹します。素人のふりをしたのです。

プロギャンブラーも「僕」の様子を見誤るくらいです。本当はポーカーのことがよくわかる上級者の「僕」が素人のふりをしてプロをだますというすごい駆け引きを見せられます。

負けた後にプロギャンブラーは気がつきます。調子に乗ったのが、最も出てはいけない場面で出てしまったこと。過信はいけないようです。

物語の結末は、結構予想通りでもあり、予想を外す部分もありの不思議な結末を迎えます。あくまでトーコの感想ですけど。

最後に、たまに「僕」が見るプエルという変な妖精との会話を。

…(中略)つまり君達は、やはり絶望なんてできないんだよ。

―だってそうだろう? 明日何が起こるかも、わからないんだから。

この部分はこの作品の中での唯一の希望になっている気がします。占いはあくまで参考なのであって、占いを踏まえた決断をすればいいのだと思うのでした。

え、占いとの付き合い方で終わるのかい、トーコよ。ほかに言うことあるだろうよ…。

 

■最後に

だましだまされるの駆け引きはすごいです。占いとポーカー賭博の付き合い方がよくわかります。

混迷を深める今の世界で生きることは、今1番求められているのかもしれませんね。

 

 

-小説,

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