こんばんわ、トーコです。
今日は、デービット・アトキンソンの「日本企業の勝算」です。
■あらすじ
著者が来日してから30年以上が経過しています。
その間に、世界で1番の国から貧困率2位の国に転落しました。生産性に至っては先進国最下位です。
今後は少子高齢化が進み、社会保障を支える担い手が減少します。そして、どこの業界でも人手不足が叫ばれています。
これを受けた著者の主張とは何なのでしょうか。
■作品を読んで
著者の名前を最近耳にした人は多いと思います。首相が変わり、政府の成長戦略会議のメンバーとして招聘された方です。
そして、この人の唱える中小企業再編を進めるためでもあります。
では、中小企業を再編する意味と必要性は何なのか。この作品では、著者の主張が余すことなく展開されています。
おそらくですが、下手な本を読むよりもいいです。特に感情論のみで展開されており、データのない作品は要注意です。
感情論ベースではなく、海外の論文まで駆使した客観的できちんと定量化されたデータ分析により論理を展開しています。
この手の作品に特有ですが、客観的で定量化されたデータできちんと理論を展開している作品があまりにも少ないので、この部分においては評価をするべきでしょう。
では、内容に進みます。
まず、アベノミクス下では労働参加率が上がりました。けど、労働生産性は向上していません。
人口減少が続く日本では、生産性の向上がないと今の経済規模以上を維持するのは困難です。
労働生産性の向上を実現するにはどうすればいいのか。ここで、生産性=産業構造の合理性と効率性としています。
そのためには、資源配分の効率化が求められます。いうなれば、経営者の能力によるといっても過言ではありません。
そこから日本の根本的な問題に目を向けます。根本的問題とは、小さい企業が多すぎることです。
ちなみにですが、中小企業白書でも同様の分析がなされています。
特に人口減少が顕著な地域において、中小企業の事務所の割合及び中小企業の事務所に勤務する従業者数の割合が高い傾向が見られる。
小さな企業が多くなればなるほど、労働資源を多くの企業に配分しなければなりません。
日本は国際的にみても大企業は少なく、中小企業が多くなっています。そして比例して企業規模も小さくなっています。
これにプラスして、日本の中小企業の定義というのは業種別になぜか分類されていますが、OECDの定義は業種に関係なく、従業員数250人です。
中小企業が増えて雇用が生まれますが、産業規模は非合理的で非効率的になり、労働生産性が犠牲になります。
さらに言えば、中小企業への手厚い優遇策があります。思っている以上に多いですよ。
これらがあることで、成長を望まない企業が出てもおかしくはないです。経営者にとってもそれが合理的な行動になります。
もっと言えば、最低賃金が低すぎるのも問題です。先進国最下位のレベルです。
ラジオでカリフォルニアの時給が1500円と聞いてびっくらこきました。
著者は、低すぎる最低賃金は、実質中小企業への補助金になると主張します。モノプソニーによって雇用側が影響力を行使し、経済学で考えられる本来の賃金より安く労働者を雇用することができるのです。
モノプソニーが強く働くことで、労働生産性の低下と企業規模の縮小、格差の拡大、女性や外国人労働者などのダイバーシティの実現が遠のく、有効求人倍率が高くなることが挙げられます。
有効求人倍率が高いのは、中小企業が多い=企業数が多いためです。そのため、労働者がたくさんの企業で必要になります。
逆を言えば、モノプソニーの影響を縮小させれば様々な問題が解決しそうです。
最後になると、中小企業の経営者の質の低さに言及し(中小企業に勤めている人なら言われてみればそうかもしれませんと納得できることでしょう)、提言策を述べて終わります。
提言は、展開していた理論の通りです。中小企業の定義の見直しと優遇措置の廃止、最低賃金の引上げです。
これらを行うことで、企業の生き残りをかけて成長するでしょう、というのが目論見です。必要あらば、企業合併が進み、投下すべき労働力の集中が図られるかもしれません。
いずれにしても、人口減少がますます進む日本ではそうなると思います。現に大廃業時代がやってきてますので。
トーコのような市井に生きるものはつぶれなさそうな企業でせっせと働くことが1番よいと思います。まあ、だから大企業に皆さん行きたがるのでしょうかね。
中小企業で働いている方は、会社がつぶれても生き残れるようなスキルが必要になるかと思います。目下トーコも探しています。
こうして話題の人を読み解くのも面白いかもしれません。
1点留意していただきたいのですが、どんなことを主張しているかを読み解いてから著者を批判した方がいいと思います。
マスコミの記事も見出しだけ読むとイマイチ信用ならないので、そういうものを読むよりもきちんと著者の主張やインタビュー記事を読んでから判断しても遅くはないのかなと思います。
■最後に
著者が政府の何とか会議のメンバーに選ばれ、いったいどんなことをする人なのかを探るのにはオススメの本です。根っこは日本大好きないい方なのですけどね。
非常にわかりやすく、理論的に生産性向上と中小企業の在り方についてまとめています。
今後の動きに注目する必要がありそうです。