こんばんわ、トーコです。
今日は、星新一の『未来いそっぷ』です。
未来いそっぷ (新生きて、
■あらすじ
「アリとキリギリス」や「ウサギとカメ」など皆さん知っているであろうイソップ物語も星新一の手にかかれば、まさかの大変換。
こんなイソップ物語やだ、と悶絶したくなります。
他にも痛烈さが入ったショート・ショートが33編あります。
■作品を読んで
トーコ個人としては、これは一気に読める作品ではありませんでした。むしろ、この本はチビチビ読んで、移動時間が長い時は他の本と並行して読んでいました。
じゃないと、このディストピアが現実味を帯びていて、読むのが正直怖くなっていたというのが本音です。
ショート・ショートなのに、なのかショート・ショートだからこの迫力なのか、どう形容していいのか分かりません。
ずいぶん臆病だなと思われますが、昭和に書かれている作品があながち間違いではないことが結構書かれていて個人的には怖かったのですよ。
では、本編に進みます。
まずは表題作「未来いそっぷ」。これは、イソップ物語が未来の世界だったらどうなるという設定の下書かれています。
アリとキリギリスでは、キリギリスがアリの巣の客人として一冬を越します。
そこで、芸術家のキリギリスはアリの巣にある食糧を数え、一生遊んで暮らせる量の食糧があることがわかります。さらにそこには醸造された酒まであることがわかります。
それからキリギリスはアリに酒の味を覚えさせ、アリたちも一緒に踊り遊び暮らします。おじいさんアリは若いアリを働かせようとしますが、時代はそうではないのだな、と言い聞かせて一緒に踊り遊び暮らしましたとさ、めでたしめでたし。
改行されて小さなフォントで教訓が書かれているのですが、その教訓がこれ。
教訓。繁栄によりいかに社会が変ったからといって、古典的な物語をこのように改作すること、はたして許されるべきであろうか。
それを言うか。とはいえ、ものの見事に物語が変わってしまったのだから、そうもいいたくわなりますわね。
でも、現代社会もこのキリギリスのような人が増えていることには間違いはない気がしますが。
北風と太陽をもじった作品に至っては、どっちが勝つのではなくまさかのクーラーの効いた室内が最強というまさかのオチ。通りすがりの人は社会がおかしいから天気もおかしいのかしらと思っている。
まあ、現代社会もそうな気がする。くそ暑くてもクーラーの効いた室内にいれば上着はいらない。
逆に寒すぎたら、暖房の効いている店に行けばいいので、って、この考え方まさにトーコ。
シンデレラ王妃の話もなんかすごい。誰もが1度は読んだことのあるシンデレラのその後の物語です。
何がほっとするって、一応シンデレラがぶれずに幸せで終わってくれたことでしょうか。意外とディストピア要素の強いこのショート・ショートの中でも結構安心して読めました。
シンデレラはちゃんと王子様と結婚することができました。それからしばらくして、先代の王が王子様に王位を譲ることになり、シンデレラは王妃になることができました。
王妃になったシンデレラは人々の視線が気になります。そりゃ、庶民上がりの王妃なんて貴族の娘からしたら面白くないですし、民衆からも嫉妬の目が向けられます。
悩んでいる王妃を見て王さまは悩みがあったら相談してほしいといいますが、シンデレラ王妃は隣国から攻められるかもしれないことを言うべきか否かということで悩んでいたとすり替えます。
そして、ラッキーだったことに本当に隣国は戦争をしようとしていたので、人々の目は戦争にいき、シンデレラ王妃の出自なんぞ気にならなくなります。
それからも様々な困難(王さまの浮気、王さまとの間に生まれた王子の行く末)をうまく切り抜けます。
物語の最後で鏡の妖精がこう話します。
なにをおっしゃいます、シンデレラ王妃さま。あなたのような立場になれば、どんな女でもそのような道をたどったでしょう。当然のことですし、それでいいのでございます。最も人間的な生き方。それをせい一杯生きてこられた。向上への絶えざる努力。その実感がおありでしょう。すばらしいことです。よりよい形として、ほかにどんな生き方があったのでしょう。結婚した時の夢みることしかできない子供っぽいまま、今日の年齢まで変わりなくつづいていたら、現在のあなたは不幸と破滅の見本となったでしょう。だが、そうはならなかった。人事をつくして天命を待ち、天命はあなたに味方した。これこそ幸福です。
えらく長くなってしまいましたが、そうだね、と納得してしまいました。
シンデレラ王妃は、シンデレラ王妃の置かれている立場の人が抱える悩みを超えなければならない状況でした。
当然ですが、結婚したての頃の子供っぽいままでずーと居続けることはほぼ不可能で、解決のために時には天を味方につけながら生きていきました。
シンデレラが王子様と結婚してからずっと陰ながら見守り続けた妖精は、シンデレラ王妃の生き方を肯定します。
向上への努力を怠ることなく、せい一杯生きてきた。あれほど憎んでいた継母の顔に近づいているのではないかと恐れていたシンデレラ王妃もきっと肩をなで下ろしていることでしょう。
他には、出世するたびに何かが起こる会社など、なんだかシュールな作品がたくさんあります。
なんだか、ディストピアだったり、未来への風刺だったりがいろいろと利いていて、色とりどりのスパイスを飲まさせているような気分になります。
これは人によりますが、トーコは何篇か読むと疲れてきました。うわ、ヤダこんな世界、と思っていても、現代社会がそうなってる場合があるからだと思います。
これは暫く読まなくても大丈夫だな。
■最後に
もちろん笑える要素もたくさんあるのですが、それにも増してディストピアな世界や風刺が利いている作品がたくさんあります。
これは好き嫌いが分かれそうな気がします。怖いもの見たさに読むくらいがいい気がします。(あくまでも個人の見解です)