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エッセイ 文庫本

【作家のこと】245.『パリの砂漠、東京の蜃気楼』著:金原ひとみ

投稿日:7月 5, 2020 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、金原ひとみの『パリの砂漠、東京の蜃気楼』です。

パリの砂漠、東京の蜃気楼 (ホーム社)

 

■あらすじ

この作品は、著者と家族がパリで暮らした日々と、日本に帰る決意をし、帰国するまでの「パリ編」と日本に帰国してからの日々をつづった「東京編」に分かれています。

どちらも、著者の日常と日々感じていることを綴っているエッセイです。

 

■作品を読んで

いやー、この人この世界で生きるのが大変なんだな、と思いました。

見た目がすごく華やかでどこか憂いを持った人だなと思ってはいましたが、作品を読んでこの内面とのギャップには驚かされました。

家族を持ってから自殺願望は少なくなったらしいのですが、常に何かに怯えているというか、言葉にしにくいものを抱えています。

そして、その言葉が妙に刺さったりもします。

例えばこんな言葉。

皆私のことを嫌いになる。いつか見捨てられる。この確信がいつから芽生えたのか分からない。この歳まで誰かにいじめられたり手ひどく裏切られたり見捨てられたこともない。それなのにこの確信があるのは、私自身が自分を嫌いで、見捨てたいと思っているからだろうか。今周りにいる人々は、常に自分を好きでいてくれる人ばかりだ。それなのに生きていることに激しい罪悪感がある。

だいぶ長く引用しました。この気持ちわかるんですよ。

ちょっと著者とは方向性が違うかもしれませんが、本当は、嫌いで私の存在が邪魔な奴がたくさんいる。自分を好きな奴なんていないのでは、という思い。

トーコはどっちかというとそんな思いを抱えています。

というか、著者と逆です。危うくいじめや無視に遭いかけたり、誰かに裏切られたこともあるのですから。

皆嫌いなんだろうな、私のこと、って思いながら暮らせているのも、一種のあきらめがあるから。

著者は最後に残っている優しさを見せている気がします。好きでいる人たちがいるって信じられるのがうらやましい。その人たちに罪悪感って。

というか、本当に生きていることに苦しみがある人なんだな、と。

なんか、トーコの友人にちょっと似ている。彼女は元気かしら。

著者も自己分析をしていましたが、自分の存在意義をくれる恋愛と死なないために音楽を聴き、死なないために小説を書いているようです。

つまり、著者にとっての小説は生きるためのもの。

また、子供時代をこう回想しています。

日本にいる時のある種の物ものに縛られている感覚は、物心ついた頃からあった。常にあらゆる人の目が気になり、気になるから学校に行くのを止めた。じっと貝のように何か固い物の中で誰の目にも触れずに生きていたかった。

すごいな、これ。いや、わかるんですよ、嫌というほど。

日本で生きていると人の目が気になるんですよね。なんでこんなに人の目を気にしなきゃならんのだ、ってツッコミたくなります。

著者の生きずらさの正体はここだと思います。

嫌っちゅう程の人の目とそれを肯定し受け入れる手段のなさに絶望していたのでしょう。

自殺未遂にリストカット、摂食障害、アルコール依存、薬の乱用。保つためにいろいろと手を付けていたようです。

だから、他の人に「愛されている」ということが得られる恋愛が必要なんだと書いています。

そのための恋愛かあ。若干依存めいたものを持っている気がしないでもないが。

でも、パリは人の目とかから結構自由そう。

だから、最初の1年は戸惑い、鬱になったそうですが、それからは気楽だったと。

帰国してからの変化は著者だけでなく、夫や長女もパリにいたころはそんなに服装や見た目を気にしていなかったようですが、日本に帰国したら衣服を新調したり、気にするようになったとか。

そういう意味で生きずらさを抱えている人というのはたくさんいらっしゃるでしょうね。

かくいう、トーコもその1人だったりします。

エッセイに登場する人物たちの話を読んでいると、共感しなくてもいいんだな、と思えるから不思議。分かり合えないことはたくさんある。

それは家族に対してもそうで、自分の存在を認められないことを静かに肯定して作品は閉じます。

 

■最後に

いろいろな意味ですごい作品です。

著者にとっては、どこで生きるにも砂漠であり、蜃気楼でもあります。

著者の苦しみは日本社会を静かに映しています。

また、家族であっても分かり合えないこともあるし、家族がいても自己の存在を認められないこともあるのです。

 

 

-エッセイ, 文庫本,

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