こんばんわ、トーコです。
今日は、梨木香歩の『ほんとうのリーダーのみつけかた』です。
■あらすじ
非常時と言う掛け声のもとみんなと同じではなくてはいけないっていう圧力が強くなっています。
息苦しさが増す中で強そうな人の意見に流されてしまうことってありませんか。
ところで、本当に耳を間傾けるべき存在は一体誰でしょうか。本書はそのヒントを授けてくれます。
■作品を読んで
この作品はとても薄く薄く非常に平易な言葉で書かれています。読書に慣れている方だとかなりあっという間に読めます。
しかし、書いてある事は余すところなく重要です。なるべくならゆっくり読むことをゆっくりかみしめて読むことをおすすめします。
まず、この作品はもともと2007年に出版社のウェブページで園での連載がもとになっています。
2007年と言う年は従来の教育基本法に様々な改変が加わった年です。
教育基本法とは、この国の教育の方針を定めた法律で、当然ですが子どもたちに影響を与えます。
新しい教育基本法では、以前にはなかった国を愛すると言う個人の感情に関わることも明文化されており、違和感を覚えました。
それが法律になると言う事は、家庭にたとえれば、親自身が自分を愛し、尊敬しろ、誇りに思えと命令していくようにも感じました。
つまり、この年は著者にとっても非常に重要な影響を及ぼす決定があった年でもあります。これを決めた方は安倍元首相だった記憶がありますけどね。
著者がこの本を変えたきっかけは、世界はもっと寛容であること、様々な人々がさまざまに来て豊かなハーモニーを奏でるというという願いを込めて書いています。
そして時が経ち、2020年に新型コロナウイルス蔓延と言う経験したこともない危機に見舞われます。
なんだか、これを機にさらに同調圧力がますます加速していったようにも思います。そしてその流れは2年経った今も続いている部分はありますけどね。
この年に単行本化されます。文庫になったときには増補改定版となり、いろいろと追加があるようですが、今回は単行本版でお届けします。
この作品のタイトルは、吉野源三郎が書いた『君たちはどう生きるか』を意識しているそうです。
読んだことないんですけど、なんとなくそういう気がしました。アンソロジーですね。
吉野さんの『君たちはどう生きるか』も時代背景を読み解くに、実は同調圧力に負けぬよう書かれた部分はあるのかなと思います。戦争が近づいてきましたからね。
まずは、同調圧力について触れています。どんなに正しくないことでも、周囲がさも正しいように言えば、圧力は感じざるをえないでしょう。だから多勢についてしまうのです。
次に、「私と小鳥とすずと」と言う金子みすずの詩について触れています。
怖いのは、「みんな同じであるべき」、「優秀なほど偉い」と言う考え方が当たり前のように支配しているのに、指導者が「みんなちがって、みんないい」と、言葉の本当の意味を考えず、慈愛の気持ちを持たずに、型通りにそれを繰り返していることです。
そうすると形骸化が起こり、陳腐なものになってしまい、空洞化や無力になります。そして、思い起こせば2007年の時点でも日本すごいぞシリーズは少しずつ起こりつつあって、少なくとも著者レベルの方だったら敏感にかぎとっていたんだなと思いました。
自分の言葉を自分の気持ちにふさわしい言葉を、丁寧に選ぶと言う作業は、地味でパッとしないことですが、それを続けることによってしか、もう私たちの母語の大地を再び豊かにする道はないように思うのです。
と著者は述べています。
その時から見ても、コミュニケーションが割と簡単に、LINEのスタンプで成立するくらい簡単になりました。
また、日本の政治の世界に限った話ではないですが、みんな同じあるべき、優秀な人ほど偉いと言う考え方が、うまくは言えないけど当たり前になってきているので非常に注意した方が良いんじゃないのかなと、この文章を読みながら改めて思いました。
そしてこの後確信に進みます。
ところで最初に冒頭で言ったあなた本当のリーダー誰と言う疑問に行きます。
ドッグトレーナーやヘレン・ケラーの例を用いながら、1番見栄を張らないといけないのは、一番良い格好しないといけないのは、まず誰だろう。
そこで、1番大切にしないといけないのは、他人の目ではなく自分の目だって言うことを教えてくれます。
ここまで読んでくると、本当のリーダーは誰かがわかってきます。予測ができるんですよ…。
そう誰よりも私の事情を知っているのは、いつだって私の味方に立ってくれるのは、私自身です。
正直に言うと、この本のイメージは、本当のリーダーの見つけ方っていうのは誰かについていく、あくまで他人についていくことを前提にしていたので、この結論は意外でした。まさか、自分と来ましたか…。
鶴見俊輔さんが話してくださったエピソードがあります。
その方は戦争中に、訓練を受け殺人現場に出ることになりました。その時に捕虜になった中国人を刺すことで度胸をつけようとする訓練があったそうです。なんだそりゃなことですけど。
この方は、「殺人現場には出る、しかし殺さない」と決心しました。それは、とても勇気のある行動です。
しかし当然ですが、周りから蹴られ、銃床で突かれたり、軍靴を口にくわえさせられ、犬のように四つん這いになって雪のなかを這いつくばったそうです。
この方のように、同調圧力に屈しないという行動をする方がいないかもしれません。このエピソードから、著者はこう読み取ります。
ここまではする。でもそれ以上はしない。これ以上してはいけない。やってしまったら、そこであなたのなかの「自分」ということの連続性が切れてしまう。それは魂の存在の危機。「それ以上はやるな」。おそらくこれは、Aさんの中のリーダーの声。ギリギリで発せられた魂の声。
そういう声と会話するためには、批判精神を持ち、埋もれている魂を掘り起こしてリーダーとしての機能させないといけない。そのためには、まずは自分自身で考える、ということが大切です。
自分で考えるためにはそのための材料が必要です。その材料となる情報をまず、摂取しなければなりません。でもその情報もすべて鵜呑みにするのではなく、自分で真剣に向き合って、おかしいと思ったらこれはおかしいんじゃないか、と、疑問に思わなければならない、そういう時代になりました。つまり、その情報が出てきたところの事情を想像する力をもつけなければならない。
これってすごく大切なことで、皆さん忘れてると思うんですね。
ちゃんと事情を創造する力をつけないと、額面の意味まで取り取り違える可能性が上がります。すごくこれは肝に銘じておかないといけないことだと思います。
仕事でメールでコミュニケーションを取っても、話す時と書く時では口調が違うし、ニュアンスがつかめなかったり、裏側がつかめた方が個人的には仕事しやすいので。まあ、これはあくまでトーコの感想です。
この作品では、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』に影響受けているため、若干話の解説も入っています。個人的には、知ることができて嬉しいんですけども。
きっと、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』がもう一度リバイバルしたのは、この正解のない、モデルもない、1番良い方法は万人に受けないかもしれない難しい時代に、きちんと考えることを提唱してるなと思います。
人間中心主義がもう一度必要とされているのか、まずは自分の中のリーダーが言う言葉をきちんと感じ取る必要があるのかなと改めて思いました。
混沌としている時代だからこそ、この本をきっかけに振り返るべきだなと思いました。
■最後に
タイトルから考えると、個人的には結構裏切られた作品だなと思いました。
ですが、中身は非常に平易な言葉で書かれ、とても大切なことがたくさん詰まっています。
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