こんばんわ、トーコです。やっと400冊まで来ました。ありがとうございます。
今回は、澤田大樹の『ラジオ報道の現場から声を上げる、声を届ける』です。
■あらすじ
2021年2月、森元オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の女性蔑視発言に関する謝罪会見のことを覚えていますか。
ある記者の「更問い」を端緒に社会が動いた出来事を。著者はその「ある記者」です。
ラジオ記者として限られていることは様々ありますが、日々取材に奔走する記者が描くラジオ報道の現場です。
■作品を読んで
まずは、著者の紹介です。TBSラジオを聞いている方なら結構お馴染みかもしれませんが、この方はTBSラジオ唯一のラジオ記者です。
特に「アシタノカレッジ」の金曜日の武田砂鉄さんとの今週の振り返りのコーナーはかなり秀逸です。これが公共の電波で流れているという若干の奇跡。
他にも、「荻上チキSession」、「ジェーン・スー 生活は踊る」、「パンサー向井のふらっと」で解説してたりします。
それぞれの番組のリスナーに合わせて解説していると「アシタノカレッジ」内で言ってたので、すごいなと思いました。
また別の日には、「アシタノカレッジ」が終ってからこの作品について編集者と話をしなければならないと深夜12時に言ってたので、書く人も大変だけど、原稿を間に合わせないといけない編集者も大変なんだなと思いましたけど。
確かに、「荻上チキSession」と「パンサー向井のふらっと」では解説するための言葉の遣い方も変えていた気がしましたので、より多くの人に伝えるということにきちんとした姿勢を持っている人だな、と思っています。
今どきの報道人にしては非常に珍しい人でもあり、まだまだマスメディアも捨てたもんじゃないなと感じています。
それでは、作品に行きましょう。
第1章では、澤田さんがどのようにしてラジオと出会い、TBSラジオに入社し、ラジオ記者となるまでの日々を描いています。
どんな人にも何かをするきっかけがあり、ここまでのちょっとしたドラマがあり、その中に人となりが育っていくんだな、と思ってしまいます。
さらに意外だったのは、著者は当初は制作志望だったこと。しかし、積極的にかかわろうとせず、アイディア出しもしないうちに配属1年で異動になります。
それからニュース部に異動になります。しかし、またも壁にぶつかります。記者がどんな仕事をするのか、誰も教えてくれない。
今の姿を見る限り、全く想像がつかないのですが…。ちょっと、これはかなり衝撃でした。
トーコも大企業というところに転職したばかりなのですが、仕事を具体的に教えないんだな、と思いました。大企業の方が顕著な気がします。
離職して初めて感じましたが、中小企業の方が案外仕事の中身をきちんと教えてくれてたな、と思いますよ。
会社に来ては新聞を読むだけの日々が続いていた著者を見かねたニュースデスクの方からニュース原稿の書き方を教えてもらいます。
それから、「荒川強啓デイ・キャッチ!」で中継レポートコーナーを担当します。そこでラジオのレポートの型をつかみます。
視覚情報にとらわれない分、ラジオではたとえ同じ現場を取材したとしても、何を取り上げるかは取材者によってかなり異なる。それゆえ、記者やディレクター各人の個性が出やすい。何をリスナーに伝えるべきか、それを現場で瞬時に汲み取れるかは記者の裁量にゆだねられている。そのプレッシャーを数をこなすうちに実感するようになったが、同時に記者の着地点や掘り下げ方を含めてリスナーに「聴かれる」のがラジオだということを身をもって知った。
トーコの感想は2つです。
まず、1度は仕事の仕方が分からず、危うく芽が出なかったかもしれない人も、良き仲間にめぐり逢え、仕事を少しずつ覚えていくうちに自分なりの方法や型を身に着けることができたこと。
上記の引用はそれゆえの視点であり、その成長過程を通して何かを発見できなければ、逆を言えば会社で生きるにはかなりヤバくなること。
どんなに「自分はやりたいことがあるんです!やらせてください」と言っても、ただただ受け身では何もやらせることは出来ないということにも通ずる話なのだな、とふと思いました。この部分は本書では言及されていませんが。
もう1つは、純粋にラジオ報道って言われてみればリポーターの個性が出るなあ、ということ。
トーコもTBSラジオはよく聴くのですが、ラジオ報道はテレビ報道とは違うし、ラジオの方が客観的な事実を伝えていると信頼をしています。
テレビの報道がなんか変だという方は、ラジオの報道コーナーを聴いたた方がいいと思います。
コロナ渦やウクライナ報道では精神衛生上その方がいいと思いました。ウクライナの最初の頃は結構聴くのも苦しかったですが。
結構長くなりました。ラジオ報道に慣れたころに、3.11の取材に仙台に行き、その年の10月にTBSテレビに出向し、出向中に育休を取得、テレビ番組の作り方を学びます。
3.11の取材の話は最終章で触れられています。これはすごいな、と思いました。
トーコも情報を何とかして手に入れようと震災直後の1週間くらいは躍起になっていましたが、報道する側はここまで苦労していたんだと、頭が下がる思いです。
2016年に出向から戻り、報道系番組のディレクターをし、2018年からラジオ記者になります。
とはいえ、ラジオ報道の現場は「アシタノカレッジ」でも言及していますが、なかなか不便なこともつきものです。
まず、何かと政府の会見会場に入れない等の制限があるようです。TBSラジオが加盟してないとか何とかで。
ちなみ、「Session」のディレクター時代に政局の報道をしていた時のリスナーやネットの反応は芳しくなかったそうです。一方、テレビや新聞は政局の報道がまだまだ主流な気がします。
リスナーが求めていることは、政策論争や国会論戦中心の報道でした。今の「Session」はそんな感じですし、「国会珍プレー好プレー」が地味に楽しみだったりします。
一リスナーとしては、政策論争や国会論戦を報道してもらわないと、いざ選挙の時にどの政党に投票すればいいのか分かりませんし、有権者も2週間じゃ考えがまとまらないと思います。
第三章では、森喜朗会見の裏側について触れられています。このぶらさがり(なぜこの表現かは本書を読んでください)は19分しかないのですが、なかなか緊迫した様子が伝わってきます。
著者としては、投げかけた質問に何も答えていないので、かなり正直に質問しただけなのですが、なぜか森元首相にキレられるという状況になっていたそう。著者は、具体的な言質が取れず、悔しかったのだとか。
で、驚いたのは、この日の会見はTBSラジオだけが追及していたのではなく、多くの女性記者が森元首相を追及しようとし、森元首相だけでなく、スポーツ団体のジェンダー観まで明らかにしようとしていました。
当然ですが、会見は1人1人の記者の質問の積み重ねでどんどん回答が引き出されていきます。
当たり前と言われればそうですが、報道の裏側をよくわかっていない身としてはなんか新鮮なことのように見えてきます。
ジェンダーについては、男性側も強く意識を改めないと、こういう事象は必ずまた起こるでしょうと。そのためのことをこう言及しています。
そのためには男性である自分が「わかっていない」前提で、何が問題なのかまずしっかりと女性たちの話を聞くこと。それを周りと共有すること。そして、男性同士で指摘し合える環境を作っていくことが重要だと考える。そもそも、ジェンダー的に問題のある発言や表現は決定権者に男性しかいないところで起こりがちだ。かかわるスタッフ間のジェンダー平等を進めるのと同時に、何かを決めるときにその場にいた女性がいるということを当たり前にするところから始まるのだと思う。
その通りです。女性だけでなく、男性側からも声をあげてもらわないと困る話でもあります。株式会社では少しずつ女性取締役を置く会社増えてきましたが。
他にも、国会記者としての裏側や、先ほど触れた通り3.11の時の取材活動、ライフワークの高校演劇の取材などにも触れられています。
さらには、ラジオというメディアが斜陽産業と言われ続けていますが、ラジオに活路を見出し、それゆえに意識していることも書かれています。
信頼を得るためには、毎日何をどう報じているのかが問われる。送り手側としては、毎日聴き続けてもらえるように生活者目線を忘れず、さらに報道によって新たな価値を提供できる存在であり続けなければならない。小さい所帯でフットワーク軽く動け、新たな取り組みにチャレンジできる土壌があるのだから、それを生かさない手はない。新たなラジオの聴き方、ラジオ報道のあり方について、模索しながら進む日々が続いている。斜陽産業と言われて久しいラジオではあるが、日々の報道内容によって信頼性が担保されるからこそ、こうした新たな音声コンテンツ市場の中でも優位性を確保できるのではないかと考えている。
今、私たちが求めている政治報道って、政局ではなく生活者としてどう政治がかかわって来るか、なんだと思います。そんな気がします。
テレビ報道、特にワイドショーは政局について割合多めに話している気がします。そこが知りたいわけではないのに、メディアがアップデートされていない。
テレビ見ている人たちこそ、生活者なんですがね。生活者として政治にはかかわらなくてはいけないはずなのに、必要な情報が供給されていない。
ここまで読んでくると、澤田記者は記者というよりも一生活者としての目線を大切にしているんだということは十分に伝わってきます。
同時に、ラジオの聴き方やラジオ報道のあり方にも言及しています。同時に、報道機関の報道というお墨付きは他の音声コンテンツにない絶対的な優位性です。
それをどう生かして報道するかも含めて、今後の活動に期待します。いちリスナーとしても非常に楽しみです。
■最後に
ラジオ報道というなかなかなじみのない世界の裏側を描いています。なじみのない世界だからこその、様々な裏側が書かれています。
生活に寄り添う報道ができるという新たな音声コンテンツになるかもしれません。
ラジオ報道に慣れている人もそうでない人もきっと発見があります。