こんばんわ、トーコです。
今日は、ジュンパ・ラリヒの『停電の夜に』です。
■あらすじ
この本の中には、9編の短編が収録されています。
夫婦、家族といった親しき仲にも何かある、その断片を鮮やかにさらっと描いています。
また、作者がインド系の方のせいなのでしょうか、作品の中にはインドの要素がかなり詰まっています。
■作品を読んで
著者はインド系とされていますが、著者の親の代がインドから移住してきたので、実際にはインドには住んだ経験はないそうです。
が、随所にインドが含まれていますが、この人実は本当は住んだことがあるのでは…、と思わせる描写も多々あります。
訳者曰く、それがこの著者の持つ視点の自在さが良く出ているのだと思います。
まずですが、最初の「停電の夜に」という作品でやられます。
この話は、工事のため5日間だけ1時間停電するので、夫婦は真っ暗な中ロウソクの灯りの元で隠していたことを打ち明けていきます。
なんというか、この描写がうまいなと思いました。
冒頭で夫婦の日常が淡々と描写されています。何気ない日常ですが、一体何が起こるんだろうかと気になってしまいます。
しばらく読み進めると、この夫婦は妻が妊娠するも流産し、妻は子供が産めない体になったこと、それからというもの夫婦関係がぎくしゃくしていることがわかります。
外国小説って、なかなか関係性を理解するのが大変で敬遠している方も多いかもしれませんが、この本に収録されている作品は登場人物の関係性を理解するのは割と容易な気がします。
それゆえに非常に読みやすいのでしょうね。
そして、停電の夜がやってきてふとしたきっかけから、ろうそくの火をともした室内でお互いが今まで明かしてこなかった秘密を話します。
秘密を話すという行為は本人の心を楽にしますし、信頼している相手だからこそできる行為なんだな、と思います。
なので、最後のどんでん返しには読者も驚きます。夫もそれを知った時は残酷なことを言います。
また、「ビルサダさんが食事に来たころ」という作品では、少女の目から見た世界が広がってきます。
時代はバングラデシュがパキスタンから独立をしようとしていた時代のこと。大人たちはそれに翻弄されているが、周りの子たちにとっても、主人公の少女にとっても遠い出来事。
家によく食事に来ていたビルサダさんがふるさとに残した家族を想う感情が、しばらくしてビルサダさんが帰国し、食卓にビルサダさんがいないことをふと感じたとき、少女はビルサダさんの気持ちが初めて分かったのでした。
でも、それよりもトーコが思ったのは、戦争の様子や家族と離れ離れになる人の感情が少女の目を通して何かが伝わってきたことです。
うまく伝えられないのですが、進行形で書かれる遠い戦争の場面が実は近い世界で起こっている状態は、なかなか現代の日本では感じられないもののような気がします。
小説は時に別な世界、見たくてもなかなか見られない世界に連れて行ってくれるのですが、この「ビルサダさん…」は本当に別な世界に連れてくれました。
だから、戦争で緊迫している状態がトーコにとってはかなり衝撃的でもありました。
■最後に
この作品は、他にも様々な作品があります。いずれも視点の自在さと精緻な文章で見事に表現しています。
関係性が見えやすい外国小説も珍しいかもしれません。非常に読みやすいです。
また、私たちの想像に及べないほどの事実が世界にはあります。
なので、日本にいるだけでは得られない視点が得られますよ。
[…] ジュンパ・ラリヒは、前に紹介した194.「停電の夜に」という鮮烈なデビュー作がありますので、よかったらどうぞ。 […]