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【音楽家の姿】284.『グレン・グールド』著:吉田秀和

投稿日:2月 20, 2021 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、吉田秀和の『グレン・グールド』です。

グレン・グールド (河出文庫)

 

■あらすじ

グレン・グールドは様々な伝説を残した天才的なピアニストである。特に「ゴールドベルク変奏曲」のLPで大ブレイクしました。

その演奏についてを記したのが本書です。

 

■作品を読んで

作品を読みながら多々わからないことがあるので、その時はYouTubeを使いましょう。

まず、のっけからわかりません。グールドの出した「ゴールドベルク変奏曲」が一体どんな演奏なのか。

その時に便利なのがYouTube。検索すれば1発で出てきます。はあ、いい時代。で、聴いてみましょう。

おすすめは、グールドの演奏だけでなく、ほかの人の演奏も聴いてください。違いがなんとなく分かると思います。

それから、本書に戻ってください。グレン・グールドの「ゴールドベルク変奏曲」を見事に描いています。

聴いてから読んだ方がなんとなくですが、文章が生きてきます。うん、そうだ、と言いたくなります。

「ゴールドベルク変奏曲」LPを出した当時、グレン・グールドの演奏は賛否両輪を巻き起こします。

最大は、テンポについて。異常に速い。

とはいえ、バッハの正当なテンポって一体どこ?という問題は著者がこの文章を書いている当時解決していないですが、それにしても速い。

さらに言えば、曲中でも自在に変えてくる。一定じゃない。

そして、こう評します。

ピアノの音楽をバッハに即して拡大深化させる。彼のバッハは既成の常識をはみ出したというだけでなく、…過去の世代のバッハ像を変革する。彼は、そういう点で、まず専門家たちの度肝をぬいたのだろう。

バッハの音楽はピアノを前提としているものではありません。確か、チェンバロやパイプオルガンのために作曲しています。

なので、ピアノでバッハを弾くことは、そもそも楽器が違うので、自由度は上がります。ですが、それ以上にバッハ像をぶっ壊してしまったようです。ただそれによって、同時にバッハをピアノで弾くことを可能にしたのでした。

ちなみに、このLPをリリースしたころ、グレン・グールドはまだ20代の中頃。恐ろしい天才が現れました。

それから、1964年になるとグレン・グールドはコンサートといった演奏会活動を一切やめ、ラジオやテレビ、レコードのリリースのみの活動を選択しました。

これまた、びっくりです。でも、時代背景を鑑みると納得できる点を見出すことができるでしょう。

1960年代になるとレコードでの録音がどんどん普及してきます。メリットは生の会場に足を運ばなくても、演奏が聴けてしまうこと。

デメリットを挙げるなら、レコード録音時の演奏がもう1度できるのかというと、そうとも言えないことでしょうか。

これを踏まえ、著者はこういいます。

完璧な演奏を求める現代のレコードの要求に応えることができた演奏家は、あとは実際のステージでは、彼自身の理想的なイメージをたえず裏切りつづけなければならないことになる。

ああ、なるほど、と思いました。工業製品のごとくステージで再現しなければならない、と解釈したのでしょうか。いや違う。

レコード演奏を、最高度に特徴的な品質の一つとして見ていたのではないでしょうか。録音した演奏からいいものを演奏家自信が逆に選んでいく。

だから、演奏会活動をやめたのでしょう。まあ、今のアーティストだとCDとライブにはまた違うものがあると割り切ってますけどね。

結構この著者折に触れて何回も、グレン・グールドの生の演奏を聞き逃したことを記載しています。

まあ、生の演奏が聴けなくなってしまったのですから、余計悔しかったのでしょう。

1958年に著者がドイツ滞在中に2回ほど聞く機会があったようですが、1回目はベルリンについたのが1日遅れたため聞き逃し、2回目は演奏会が演奏家の都合でキャンセルになったため聴けなかったのだとか。

ちなみに、日本帰国後改めてグレン・グールドのレコードを聴いたそうですが、批評家の姿勢に驚いたようです。

「ゴルドベルク変奏曲」レコードが出た当時賛否両輪分かれ、しかもどちらかと言えば否定的な多かったそうです。

その表現の言葉選びもすごくうまいです。著者はこう述べます。

…『ゴルトベルク変奏曲』では、これだけの演奏をきいて、冷淡でいられるというのは、私にいわせれば、とうてい考えられないことである。私は、日本のレコード批評の大勢がどうであるかとは別に、このことに関しては、自分ひとりでも、正しいと考えることを遠慮なく発表しようと決心した。

というか、批評以前の問題です。無関心に冷淡ってダメじゃん、グレン・グールド、ガン無視じゃないですか。すごい姿勢…。

評論家としては正しい姿勢です。正しいと考えることを、時には言葉を選ぶことを。

著者の死後もこうして著作をまとめて出版されるのが本物の証です。

ちなみにですが、著者がまたヨーロッパに渡り、様々な音楽家と話す機会得ています。そこで、『ゴルドベルク変奏曲』のレコードを挙げたときに、何か意見をを言い、態度を明確にする人しかいなかったことを経験したそうです。

まあ、日本のレコード評論の世界がガラパゴス化しているのを目の当たりにした後の教訓でした。

時を経て、あるいはレコードがどんどん増えていく中で、最初に聞いた「ゴルドベルク変奏曲」について徐々に言葉になっていきます。

そして、解説者もこういいます。それは、グレン・グールドの演奏をテレビで見たときのこと。

アンチェルルの、いわゆる「健康的な」指揮姿は、ある時間をすぎると、それ以上私たちの注意をつなぐには空虚すぎると見えてくる。「この人の耳にはあれが聞こえないのでは?」という疑いがわいてくる。というのも、「あれ」の所在を示すことこそ、グールドの演奏の急所だとわかってくるからだ。

これが急所のようです。さて、「あれ」の正体は読んでみてのお楽しみです。

 

■最後に

吉田秀和のグレン・グールド評はいかがでしたでしょうか。読みながら、だからこの人は高校の現代文で出てくるんだな、と納得します。

言葉選びがうまく、かつ見事に自分の意見を述べています。評論文のお手本です。

 

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