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小説 社会

【近未来の姿】276.「消滅世界」著:村田沙耶香

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こんばんわ、トーコです。

今日は、村田沙耶香の「消滅世界」です。

消滅世界 (河出文庫)

 

■あらすじ

セックスで子どもを産むことがなくなった世界で、「両親が愛し合って」生まれた雨音は、母親に嫌悪を抱いていた。

雨音は夫と一緒に結婚生活を送る一方で、夫以外の男性やキャラクターと恋愛をし、全うに生きていた。

しかし、実験都市に移住すると状況は一変する。

 

■作品を読んで

ついこの間ですが、ラジオでバービーが「男性の方へ、妊娠したいと思いますか?」と聞いてましたね。ふざけてますよね…、と言いながら。

これを聴いた瞬間に、この作品を思い出しました。もう少し詳細に説明しますが、男性が本当に妊娠してしまうのですから。

さて、戻りましょう。

夫婦間のセックスが「近親相姦」といわれる時代設定で、雨音は両親が「愛し合って」産まれたという事実に嫌悪し、母親から男女が愛し合うことを教えたせいか、大人になっても母親の呪縛から逃れられずにいました。

というか、清潔な結婚生活=セックスなし、2人で暮らしていても夫や妻以外と恋愛OK、という世の中の設定もすごいです。

何もかもが今の常識とひっくり返りすぎてのけぞりそうですが、読み進めると近未来の姿としてありえなくはないんだろうな、と思わせる記述が多いのもまた事実です。

雨音が高校生のころ、親友の樹里からこういわれます。

ヒトと恋をして繁殖する必要がなくなったから、性欲処理のためにたくさんのキャラクターが生み出されているのよ。私たちの欲望を処理するための消耗品じゃない。それでみんな、満足するようになっている。そのうちわざわざセックスする人なんていなくなるわよ。

…略

そのうち、セックスも恋もこの世からなくなっていくと思うわ。だって人工授精で子供を作るんだから、わざわざそんなことしなくてもいいじゃない。

なんだか、そんな世の中が来そうで怖いです。

今でもたくさんのキャラクターが生み出され、まだ性欲処理で使ってはいないですが、3次元の男よりも2次元の方がいいという人もいます。学生時代のトーコの周りは結構多かったな、3次元より2次元派。

でも、雨音は樹里に自分の大切な恋人たち(アニメのキャラ)を見せます。おそらく、樹里は理解はできないけど、わからない何かがあると受け止めます。樹里って、ずいぶん大人びた高校生だなあ。

樹里はまたこういいます。

大切なものは、他人に見せると簡単に踏みにじられる。そんなに彼らが大事なら、ちゃんとしまっておきなさい。

その通りです。大切なものほど自分の中にとどめ、見せない方がかえっていい。他人にとっては、どうでもいいものですからね。

それから、雨音は朔という男性と結婚します。何が凄いって、雨音にとっては2度目の結婚で、1度目の結婚は前夫による近親相姦(同意のないセックス)が原因で離婚しました。

おお、身内で勃起することが悪く書かれるって、ある意味すごい。ひっくり返ってる世界すごい。

当然ですが、2人はセックスをすることなく、時が来たら人工授精で子供を持つことを考えています。外には夫や妻以外の恋人がいて、そっちで恋愛を楽しむ。なんか、不思議です。

中盤で朔の恋人が自殺未遂を起こします。一命を取り留めた彼女はこういいます。

…私たち人間は、もう恋をするような仕組みじゃなくなってきてるのよ

セックスが消滅した世界でのおまけなのでしょうか、ヒトとヒトが正面切って恋愛がしにくい世の中になっていたようです。

なんというか、この人ちゃんと生命倫理をきちんと踏まえて書いてるんだなあ、と思わせる箇所です。

人は恋をして、他人と付き合い、やがて愛をささやきあい(?)、結婚します。結婚してからも、2人でセックスをしつつも、子どもを産むか産まないかの選択をします。その過程でセックスレスに陥る人もいるようですが。

若干主観が混じっていますが、現代社会の恋から家族になるまでの過程はこんな流れだと思います。

ですが、この作品ではこうではありません。セックスが切り離されているのですから。恋愛をし、2人で盛り上がっているときのはけ口がない。

朔も実は気が付いていました。恋とセックスのまねごとをしている状況に限界を感じていました。

雨音と朔は恋のない世界に逃げることにしました。実験都市・千葉に移住することにしたのです。

実験都市は、楽園(エデン)と呼ばれ、そこでは子供たちは「子供ちゃん」と呼ばれ、楽園内の子供たちはセンターで管理されています。

大人の義務は、繁殖に肉体的に協力することと、子供たちの育成に協力し、「おかあさん」となって子供たちに愛情のシャワーを浴びせることと、

あの、1つ前に紹介した275.「シャーデンフロイデ」でも触れましたが、確かに愛情がなければ子供は育ちませんよ。でも、それってちゃんとオキシトシン出てますかね…。

まあ、子どもたちの表情や恰好が均一すぎて、雨音は引いてしまいますが。

そして、一緒に実験都市に行った夫・朔は人工子宮により妊娠し、世界で初めて男性の出産に成功します。成功直後に朔の様子を見て、雨音は悟ります。

私も夫も、この世界を食べすぎてしまった。

そして、この世界の正常な「ヒト」になってしまった。

正常ほど不気味な発狂はない。だって、狂っているのに、こんなにも正しいのだから。

世界がひっくり返る瞬間といってもいいです。その通り過ぎて、何も言えません。

この2人実は約束していました。生んだ子は2人で育てようと。しかし、朔は見事にこの世界に染まってしまいました。出産できたことで、すべての子供の「おかあさん」になれた喜びでいっぱいでした。

正直、男性の妊娠の様子を想像しようとすると若干引きます。体に+と-が両存しているのですからね。しかも、人工子宮は1回しか使えないんじゃないかな…。

最後は、雨音は幼少期からのトラウマをとんでもない形で乗り越えます。そして、まさかのシーンで終わります。

しかしまあ、恋とセックスがなくなる世界は果たして幸せな世界といえるのでしょうかね。「愛」と「生殖」と「性」がバラバラになった世界ってなんかディストピアな気がしてならないのですが。

 

■最後に

正常の意味がここまでひっくり返るのかと、愕然とします。いつかこんな世のなかが来てしまうのでしょうかと考えてしまいます。

「愛」と「性」と「生殖」が見事にバラバラになった世界での生きずらさを感じた世界は果たしてどうなのでしょうか、と問わずにはいられない作品です。

 

-小説, , 社会

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