こんばんわ、トーコです。
今日は、吉本ばななの『白川夜船』です。
■あらすじ
いつからこんなに眠るようになったのだろう。植物状態の妻を持つ男性との恋愛にどうにもなさを感じながらも続ける「私」。
夜をめぐる話は、こんなにも苦しくて切ないものもあるのです。
吉本ばななの「眠り3部作」をまとめています。
■作品を読んで
仕事(トーコのしんどくなる理由No.1)に苦しくなったときにふと読みたくなるのが、吉本ばなな作品。
トーコにとっては、セラピーみたいな存在な吉本ばなな作品。今回はこちらを選びました。
それにしてもですが、あとがきにも書いてある通り眠ることへの罪悪感が減る作品です。眠ることへの抵抗感が減ります。
眠ることで得られるもの。一方で寝すぎることで得ることもあります。体のリズムが狂ったり、筋力が低下したりというところでしょうか。
トーコは実家に帰るとよく寝ています。しばらく分のたまりにたまった疲れをとるためなのでしょうね。
なお、あとがきの眠りすぎた話は著者による実話のようです。
表題作「白川夜船」は、植物状態の妻を持つ男との恋愛を続ける私が、同時期に親友のしおりを亡くします。
入院中の妻にも私にもいい顔をし続ける男と会うことが、本当は好きなのに届かなくて、淋しい。彼の心の疲れを写しだしたかのようにふるまう私。2人の間に淋しさがあり、それを大切にするかのように恋をする。
こんな恋愛でいいのやら、と読者は思うかもしれません。現実を生きる人間的には、恋のかたちとしてはなんか違和感を感じます。
そんな心情を描いた言葉が凄いです。
どうしてだろう、いつもなんだか悲しくて、青い夜の底にどこまでも沈んでゆきながら遠く光る月を懐かしむような、爪の先までただ青く染まるような思いが付きまとった。
淋しさがひしひしと伝わってきます。泥沼という言い方はおかしいのですが、この言い方だとすごく苦しいけど幻想的なものを想像できます。
そんな状況でしおりの存在はどれほどありがたかったことでしょうか。
しおりは、添い寝をする仕事をしていました。はた目からは全く理解できない仕事かもしれませんが、しおりは私の状況を的確に理解していました。
相手の男にとって、決まった約束事以外は無なのです。つまり私の存在は、無。相手の心の暗闇の中にいることになっています。なんということでしょう。
私はやがて気が付きます。恋愛をしている男と一緒に寝ていると、彼が妻のことや人生など様々なことに疲れ切っていること。
その空気にもまれ、私自身も疲れ切ってしまっていること。今ここにしおりがいてくれたら添い寝してほしいなあ、と。
しおりは多くの人の添い寝をすることで、私のような悩みを見まくったのでしょう。
余談ですが、心理カウンセラーは週の稼働日数をそこまで多くしないようです。多くの人の悩みを聞き、それをうまく処理することを考慮すると週5日で働く人は多くないそうです。せいぜい週3~4日が限度だとか。前に公認心理士から聞いた話です。
しおりは睡眠薬を大量に飲んだということは、限りなく自殺です。悩みを見まくった結果、うまく処理ができなくなったんだと思います。同時に彼女自身が壊れてしまったのだろう、と。
特殊な仕事みたいな描かれ方をしていますが、実はこの作品の中で1番普通の人なのかもしれません。
寝すぎたある日の夕方に、私はすれ違った女の子から「アルバイトをしなさい。このままだと取り返しのつかないことになる」と言われます。
働かないでよく寝ている生活がいいわけありません。精神的にも影響を及ぼしているのは明らかです。本人が1番気が付いていませんが。
ぎょっとするも、家に帰ると友人からの電話で「アルバイトをしないか」と誘われます。なんという偶然。
アルバイトをし、社会に出てお金を稼ぐことで、生活に張り合いが生まれます。
なんというか、見事に私は再生します。終わりのない恋愛と大切な友人を亡くした喪失感から心が疲れ切った状態になり、心の奥底でボロボロになった状態から見事に立ち直ります。
人生はそれの繰り返しなんだと思います。まるで中島みゆきの歌を聞いて深いところまで落ち込んでから立ち直っていくみたいなプロセス。
たとえがものすごくニッチなのですが…。
ただ、私の選択はそれでも植物状態の妻を持つ男との恋愛を選択することでしょうかね。普通は別れてしまうのでは、という場面ですが。
立ち直った後の何事もなかったかのような2人の間柄に日常を見ることができます。「私」が立ち直るのを見てトーコとしてはちょっとほっとします。
ほかにもあと2作あります。2作目の「夜と夜の旅人」という作品名がすごく素敵です。もちろん作品自体も素敵ですが。
「ある体験」という作品は、1人の男を取り合ったもの同士がもう1度再会するという不思議な設定の話。
しかしまあ、人との別れから立ち直るのには寝たり、お酒に頼ったりと様々な手段が必要になる場面が多々あるんだな、と思わずにはいられません。
■最後に
眠りについて書かれた三部作です。表題作の「白川夜船」についてしか書いていませんが、ほかの2作もすごくいいです。
大人のおとぎ話に近い気がします。眠ることも悪くない、でも眠りすぎは危険。そう思わせる作品です。