こんばんわ、トーコです。
今日は、桐野夏生の『抱く女』です。
■あらすじ
時は1972年、学生運動真っ只中な世の中が舞台です。
20歳の大学生直子は世の中に違和感を覚えながら、日々を送っていた。
やりたいことも見つからず、女性が生きずらい世の中で、ただ必死に居場所を探していた。 そんなある日、人生が変わるような出来事に遭遇する。
■作品を読んで
最初に言いますが、決してトーコはフェミニストではないです。
ただ、1972年という時代は大学生自体がかなり少ないです。
同世代は結構な割合で働いています。中には中卒という人もたくさんいる時代です。
しかも女性が大学生をやっているのがまだ珍しい時代でもあります。
作品の冒頭で、直子はとって唯一の友人である泉に対してこういいます。
「どんなに冴えない男だって、自分の下に女が属していると思っているから、威張ってるんだよ。」
なんというか、世の中様々なテクノロジーが発達し、女性だって社会進出が進んでいるはずなのに、殊フェミニズムの世界に関しては40年以上経過しているのに問題の本質は何も変わっていないんだなと思い知らされます。
げっそりしました。トーコの勤める会社のセクハラ防止講習会で、「女性を下に見るからそいう態度、行動をするのです。」と言われたので。
けっこうこのセリフが衝撃的で、あんまり世の中がある意味で進歩していないことにびっくりさせられます。
ただ、この直子という主人公にはあまり共感しにくいです。
大学は確かに退屈で、つまらないことも多いです。 ただ、勉強することも面白いし、大学の外の人間の方が面白いと思うこともあります。
多分トーコが居場所を見つけることができたから直子に共感しにくいのだと思います。
大学って自分で居場所を見つけないといけないからで、友達がいなくても最悪居場所さえ見つければやっていける場所でもあります。
ただ直子の場合は、昼間から麻雀で男と同じ事をしようとします。まあ、彼女の場合は負けてばかりですが。
周りの男たちとセックスもします。ただ、昔は今以上に女子に処女性を求める時代でもありました。
ウーマンリブという女性解放運動にも参加しました。だが、なかなか共感を得られず、そこを居場所とすることができませんでした。
直子は最後に深田という見習のドラマーに恋をします。身を捧げるようにして恋をします。 やっと居場所が見つかったと言わんばかりに。
それから学校をやめ、半ば駆け落ちと家出をして物語は閉じます。
学生運動が盛んな時代のせいか、泉の元カレと直子の兄が学生運動にかかわりをもち、命を落とします。
泉の元カレが自殺し、泉宛の遺書を残します。
この遺書は残されたもののことは考えていません。本当に勝手に死んで、無になってしまいます。
でも、死は最強なのです。残された者にとっては、誰にも文句は言えないし、理不尽に耐えなければならないし、無力感や虚無感に襲われる。
なんだか妙にはかないです。なんだかなあ。 最後まで読み通すのが妙に怖い作品でもありました。
■最後に
時代が変わって女性がどんどん進出しても根幹の部分では何も変わっていないことを思い知ります。
自分を見つける旅をひたすら続ける主人公の姿は決していいとは言えませんが、最後は収まるべき場所を見つけました。
妙な説得力と読み進める怖さがある作品です。
[…] 前回トーコは119.「抱く女」著:桐野夏生 で男女に関してはどんなに技術が発達しても、認識がそもそも変わっていないので、1970年代と問題の本質は何一つ解決していないと思ったことを書きました。 […]