こんばんわ、トーコです。
今日は、沢木耕太郎の『流星ひとつ』です。
■あらすじ
この作品は、1978年に歌手をやめ、芸能界を引退することを決心した藤圭子に、作者沢木耕太郎がインタビューをし、そのときのインタビューを記録したものです。
そのためか、全文会話調で記されています。
引退間際の藤圭子は一体何を考え、受け手である作者はどう受け止めたのか。
■作品を読んで
なんというか、久しぶりにすごい迫力を放つ本に出会ったような気がします。
語りての藤圭子は、宇多田ヒカルの母でもあり、2013年に自殺した方です。
歌手時代に「圭子の夢は夜開く」がヒットしたそうです。
もう亡くなってしまった方なので、これから先彼女自身が語ることはもうありません。
なので、この本はそういう意味でもかなり貴重な本です。
このインタビューの凄いところは、聞き手の作者の力量が良いのか、インタビューの序盤藤圭子の語り口調は結構固いですが、だんだん時間が経つと結構よくしゃべるようになります。
もちろん、バーでインタビューしていたせいもあるでしょう。お酒の力はすごい。
語った内容は、自らの生い立ちや、デビューして夢は夜開くが売れて、前川清との結婚と離婚、歌手生活全般…。
かなり内容は濃いです。ちなみに藤圭子が引退した年齢は28歳、前川清と最初の結婚をした年齢は19歳だそうです。
余談ですが、娘の宇多田ヒカルも最初の結婚が19歳、27歳で人間活動と言って歌手活動を1度自粛しています。
多くの女性にとって27~28歳、30手前の年齢って人生に色々と迷います。
大学卒業してから5年がたち、何となく日々が見えてくるなかで、このままでいいのかと悩む方もいるでしょう。
ただ、藤圭子の場合はどうも違うようです。引退する28歳にして、歌手としては10年活動していました。
どうも藤圭子は喉の手術を受けていたそうで、手術前後で声が変わってしまったことから引退を考えたようです。
本人にとってはものすごく苦しかったそうです。はた目から見れば手術後の方が良い声といわれるかもしれませんが、本人は手術前の声の方がいいと思っているのですから。
この場面は結構スリリングで迫力があります。はっきり言ってこのぶつかり合い、インタビューを超越してます。
冒頭で、インタビュアーの作者は語り手にこういいます。
インタビューというのは相手の知っていることをしゃべらすことじゃない。…
すぐれたインタビュアーは、相手さえ知らなかったことをしゃべってもらうんですよ。
インタビュー中に本当にその通りの出来事が何回か起こります。
本人さえ気が付かなかったことに、ふとインタビューという形で気が付く瞬間が。
まさしく、これが本音で語るということでしょうね。
藤圭子本人はすでに亡くなっていて、歌手だったころの話を聞ける機会はもうありません。ですが、この本を読めば歌手としての彼女の姿を見ることができます。
なかなか、引退後の話がすごいだけに、歌手としての姿に驚く方も多いかもしれません。
この本はインタビュー後すぐ出版する予定でした。しかし、作者の判断により公にすることを見送り、1冊だけ製本し、藤圭子に送りました。
出版されたのも、藤圭子が亡くなってからです。あとがきにも書かれていますが、1冊の本が彼女の死後のスキャンダルから救い出してくれたことに安堵しますが、同感です。
あまりにも生々しい精神がそこにあったからです。
■最後に
ここまで語り手が語り手自身もわからなかったことを引き出すインタビューはなかなかないと思います。インタビューとしてもすごく手本のような作品です。
またそこに歌手として懸命に生きる1人の女性の姿も確かにありました。