こんばんわ、トーコです。
今日は、江国香織の『なかなか暮れない夏の夕暮れ』です。
■あらすじ
稔は本を読みながら自由気ままに暮らしています。彼には先祖代々の遺産があるため、悠悠自適に暮らすことが可能でした。
稔の周りには、姉の雀、元恋人の渚と娘の波十(はと)、高校時代からの友人の大竹と淳子、経営している店の従業員、所有しているアパートの店子などがいます。
物語の途中には、稔が実際に読んでいる本が挿入されています。
■作品を読んで
なんというか、稔は不思議な中年です。孤独そうに見えるのですが、人が妙に寄ってくるのです。
渚から見ると、「共有することができない」のもダメなポイントでしょう。
本を読むってかなり孤独な作業で、1人で行うため共有することはすごく難しいです。
渚は1人で別の場所に行ってしまったり、存在感が消えてしまったりすることから、そう感じたのでしょう。
また、彼は人を同じように親切にします。淳子と恋人のように抱き合ったりした後でも、稔は何も表情を変えませんでした。
けっこう感情をかき乱される淳子の様子とは対照的ですが。
ひょっとすると、優しいようで誠意がないのかもしれません。けっこう無意識に残酷なことをします。ある意味すごいぞ。
Going My Way度のかなり高い方です。
すごく印象的だなと思った場面がありました。
稔と雀、波十がそれぞれ違う本を読んでいて、時間が経って稔が雀と波十に問いかけても、顔を上げずに本に没頭しているシーン。
稔にとってはすごく寂しいものです。せっかく呼びかけたのに、誰も反応しないのですから。
稔は2人の様子を見て、すごく本の世界に戻りたくなりました。
すごくこのシーンに同意してしまいます。
トーコの家でも家族みんなでそれぞれ本を読んでいて、なつかしく思ったのです。このシーンにははすごく幸福な時間が流れているなと思います。
この作品の中には、稔の読む本の文章も挿入されています。
ふと本から離れたときに「この人は今何歳なんだろう」と、ふっと思い浮かんだことを考えたり、外の風景を見たり、あるいはすごくいい場面で邪魔が入ったり…。
なんだか、稔の生活には本が寄り添っているなと思います。ここまで本と寄り添っている作品ってなかなかないです。
この作品の中で様々な登場人物たちが同じときのそれぞれの日常を過ごす場面が出てきます。
登場人物たちの様々な感情が折り重なっています。すごくこの重なり合いがこの作品の味を出しています。
それにしても夏はなかなか暮れません。
■最後に
すごく様々な時間が流れている作品です。
稔にとって本を読むのは、生活に人生に欠かせないものだからでしょう。
本は共有することができないもので、孤独な世界でもあります。
同時に本を読む人はすごく強く、独自の世界を持つのでしょう。
稔という男も暮れませんが、夏も暮れません。
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