こんばんは、トーコです。
■あらすじ
夫が別の女とともに心中騒動を起こし、それが原因で夫婦は離婚しました。
この物語は、10年後偶然にも2人が再会するところから始まります。
しばらくして妻だった女から元夫に分厚い手紙が届き、そこから1年近く手紙のやりとりが行われます。
始めは女の話から心中騒動、離婚してから今現在、これからの話と移ってゆきます。
■作品を読んで
この小説の凄いところは、書簡の往復で物語が成立していることです。今どきですが、そんな小説はなかなかないと思います。
個人的にも、ここから宮本輝にはまっていきます。
著者の作品全般に言えますが、文章がかなりきれいで、整然としています。とてつもなく読みやすいし、なんだか、姿勢を正して読みたくなります。
そしてこの書簡は過去、現在、未来に向けてきちんとベクトルが向かっていきます。
正直なことを言うと、過去・現在の話から、未来に向かって話が及んだ時にこの作品が一気に大切な作品に変わったと言っても過言ではありません。
それにしても、2人とも皮肉にも再会してからきちんと腹を据えて話せるようになったみたいです。
歳月が解決するのでしょうか、もっと早く話せていたらきっと2人は別れなくて済んだはずです。
手紙のやり取りからみてもわかりますが、きちんと互いを理解し、尊重していたのですから。
それにしても、男の転落っぷりは半端じゃないです。堕ちるところまで堕ちてます。
でも、新たなパートナーを見つけることもできたし、新しい事業も成功しそうです。
女も家庭生活はうまくいってないみたいですが、障害を持った息子をきちんと育てることを、また物語のラストで今の夫と離婚することを決心したみたいです。
過去を整理して、受け入れることができた。この10年間互いにいいことはなかった。
これからはきっとうまくいく。もう2人がこうして交差することはないけど。
そう感じました。
■最後に
この物語は2人の書簡のやり取りが軸となっている、すごく珍しいタイプの小説です。
過去は変えられない。かつて共有できなかった記憶を補うことはできるけど。
でも、「いま」は変えられます。
かつて愛し合った2人が、過去と現在を見つめ、未来に向かっていく物語です。