こんばんわ、トーコです。
今日は、浅田次郎の『帰郷』です。
■あらすじ
戦争は人々に何をもたらしたのか。
帰る場所を失ったり、大切な人がいなくなって一家が離散したり。
いつの時代も戦争で犠牲になるのは市井で生きる人々なのかもしれません。
そんな人々を描いた反戦小説です。
■作品を読んで
作品に入る前に「反戦小説」について語ります。
著者は1951年生まれなので、戦争を体験した世代ではありません。
とはいえ、戦争をリアルに体験した世代は減っています。あと10年すれば先の戦争を語れる人は相当少なくなると思います。
なので、本当は今のうちにリアルな話を聞いておきたいところです。
とはいえ、語ってくれる方も多いとは言えないでしょう。思い出したくない方もいるでしょうから。
戦争についてリアルに描いているのは、大岡昇平の「レイテ島戦記」、吉村昭の「軍隊」という作品です。
これらは、「戦争小説」に分類されます。こちらの2人の場合は戦争を体験し、戦争を証言しています。
なので、かなり生々しいものがあるのだろうと推測されます。
すみません、トーコはこの2冊読んでません。だから推測です。
著者は、一方で戦後に生き、諸外国で起こる様々な戦争を見てきました。
その中で先の戦争をどう後世に伝えていくかを相当真剣に考えた結果の「反戦小説」なんだと思います。
あくまで、この「帰郷」という作品は人間描写を含め、「戦争小説」と比較すると創作的な要素が多いのだろうと思います。
当然ですが、著者は戦争をリアルに体験していないので描き方に違いが出ます。
「戦争小説」と比較するのはちょっと違うようにも思います。
ですが、どんどん戦争をリアルに体験している世代が減っている以上、こうして先の大戦に想いを馳せることができるこうした小説の存在は大きいです。
トーコとしては、こういう作品はありなのかな、と思ってます。
さて、作品に入りましょう。
1番最初の作品から、うっ、ときました。
男は家族を残して戦争に行き、激戦地で戦って生き残って帰ってきました。
ですが、男の故郷ではすでに男は死んだ者として扱われ、妻子は男の弟と再婚し、幸せに暮らしているという事実を知ります。
男はこの話を出会ったばかりの娼婦の女に話します。
女とて、3か月前は「兵隊さんのために」といって工場動員されていましたが、敗戦し、生きるために女を売っていました。
女も故郷に帰りたくても帰れない状況であることに変わりはありません。
なんか、えぐられます。あまりにも残酷であろう事実や人生がそこにあるような気がします。普通の人たちの暮らしが保障されていないのですから。
リアルにそんな事実がどこかにあったような気がしてきます。この人戦争を体験したのだろうかと、調べてしまいました。
他にも、
①戦中の激戦地で砲台の修理をする男の話
②戦後の遊園地でバイトする学生の話(この学生も父親を戦争で亡くし、母親も資産家と再婚し、母親の実家で育った苦労人)
③過去と未来が交錯する話
④青春真っ盛りの青年が事故を起こした戦艦に乗り帰れらぬ人となる予感のする話
などが収録されています。
なかなか1冊を通して読むには勇気のいる作品で、1篇ずつ読んでいました。
勇気というより、事実らしきものに向き合うのが大変だったので。
ああ、こんな世の中になっては嫌だな、と小説を読んで思うのです。
だから、平和ってすごいことなんだなと。
■最後に
8月6日の原爆の日からお盆の時期にかけて、戦争に関する特番が増えるように思います。
こういった小説を読むことで、戦争があったことを、市井の人間がこんなにも犠牲になることを想像するのは容易なことな気がします。
少しずつ戦争の語り手がいなくなっていきます。そんな今だからこそ考えなくてはいけない気がします。
[…] 186.「帰郷」著:浅田次郎 […]