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【愛のカタチ】258.『それを愛と呼ばず』著:桜木紫乃

投稿日:10月 8, 2020 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、桜木紫乃の『それを愛と呼ばず』です。

それを愛とは呼ばず (幻冬舎文庫)

 

■あらすじ

伊澤は会社経営の妻が突然入院し、さらに会社を追われるという憂き目に遭う。

売れないタレントの紗希は、芸能事務所を首になる。そんな時、紗希のアルバイト先のキャバレーで伊澤と出会う。

愛とは何か、と問いかける作品。

 

■作品を読んで

単行本の時にも読んではいますが、表紙は個人的には単行本の方がいいです。黄色いユリか何かの花で装丁されています。

文庫本版の表紙はそんな場面をほうふつとさせるのですが、なんか暗いです。雰囲気が。

この作品は一言で言えば、蜘蛛の糸にからめとられる感覚になります。さらに言えばラストはええええ、そっちに行くか、とツッコミたくなります。

伊澤は東京のキャバレーで紗希に出会い、伊澤はそれからカムイヒルズというリゾートマンションの管理のために北海道に行きます。

紗希はちょうど長年所属していた芸能事務所を首になり、いよいよキャバレーのアルバイトしかなくなっていました。

さらに、同じころ信頼していたキャバレーの衣装係の吉田プロが母親と心中していました。

心のよりどころを立て続けに失った紗希は、伊澤を思い出します。伊澤に連絡を取った紗希は、伊澤のいるカムイヒルズに向かいます。

紗希は、伊澤の妻が事故で寝たきりであること、夫婦2人3脚で経営していた会社の経営を義理の息子に奪われ会社を追われたことを聞くにつれ、ある感情が芽生えます。

紗希は、伊澤亮介に傾いていく気持ちに「憐れみ」があることに気づいた。自分よりも嘆きたい人間を思いつく限りの前向きな言葉で励ましていると、吐いた言葉によって気持ちが「浄化」してゆくのだ。

自分よりももっと不幸な人間を見て、励ますことで何とか生きていける。吉田プロもきっとこうだったのでは、と気が付きます。

ただ、紗希の場合はなんか違う方向に使っていきますが。

伊澤はカムイヒルズに管理人として赴任しますが、実は小木田という男が住んでいました。

しかし、小木田は恋人のラブドールの春奈とともに練炭自殺を図り、帰らぬ人となりました。

それを受けて紗希は、警察に届けず敷地内に2人を埋めることにしました。伊澤も協力します。

2人を埋めることを決めた紗希のことを伊澤はこう評します。

紗希の口からこぼれる言葉は強靭な蜘蛛の糸に似ていた。どんな隙間にも入り込める細さを持って、ひとたび網となったあとは、もがけばもがくほど亮介の自由を奪ってゆく。

紗希にとってはおそらくですが、無意識の産物のような気がします。

アイドルを夢見て上京し、芸能人として活動していくために様々なものを我慢し続けてきました。

伊澤は、紗希の美しさについてこうも述べます。

紗希の美しさは、隙のない石畳のようだ。ただ、見ているだけで良い、人工的な景色に似た美しさだった。

紗希は様々なものを我慢し続けた結果、美しさはキープし続けました。強靭な意志です。

おそらくですが、それだけでは芸能人として生きていくことはできませんし、売れなかった原因のような気がします。

よくも悪くもまじめな努力家。でも努力が必ず報われるわけではない。強靭な意志が蜘蛛の糸のように伊澤をからめとったのでしょう。

このエピソードはそんな本質をよく表しているように思います。

この1件の後、2人は分かれます。伊澤は妻の遺言が執行され、無事に会社の経営に戻ることになりました。

紗希も老人ホームでの朗読スタッフとして働き始めますが、伊澤コーポレーションの新しい本屋のスタッフに応募します。もう一度伊澤に会うために。

もう一度紗希に会ったときに伊澤は気づきます。

やはりこの感情は「愛しみ(かなしみ)」だろう。

かなしみの、ずっと向こうになるもの。選ばれた者にしか開かれない扉だ。

紗希にとっては伊澤を必要としています。伊澤もそれを察しています。でも、感情としては出しません。

おそらく伊澤は、亡くなった伊澤の妻を必要としているのでしょう。でも、伊澤の心は、妻には会えず大きな喪失の穴としてぽっかり開いています。

小木田の死の時に感じたひとはささやかな幸福の中でこそいちばん良い死を迎えられる、ということを紗希は感じました。

誰かの幸福を少しでもいいから延ばすことで、幸福を感じてきた紗希。これって本質的には善行ではないんです。エゴです。

ネタバレですが、最後に伊澤は、死にます。伊澤亮介殺害容疑で紗希は検察へ連行されます。

紗希は伊澤のことが好きでしたが、願いは叶いません。しかし、伊澤が妻を失い、地味に生きがいを失っている状態で死ぬのは伊澤にとってもよかったのかもしれないです。賛否両輪ありそうですが。

それを愛と呼びません、といったのは検察官です。法の下では紗希の言う愛は愛ではないのです。

しかし、そこに愛は確実に存在していたようにも思います。あとは、読み手の理解にかかっているような気がします。

最後に、作者はこう述べます。

人は言葉によって生きもし、死にもします。真面目な人を追い詰めるような言葉は避けてほしいですね

その通りだな、と思います。そしてこの作品の核はここなんだろうな、と腑に落ちます。

 

■最後に

読了後は、何かとらえて離さない作品です。蜘蛛の糸にからめとられる、そんな感覚があります。

それが愛じゃなければ一体何なのか。迷宮にはまりそうです。

言葉で生きられるし、死ぬこともできる。すごい印象を残す作品です。

 

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