こんにちは、トーコです。
今日は宮本輝の『ここに地終わり海始まる』です。
■あらすじ
タイトルの「ここに地終わり海始まる」という詩はポルトガルのロカ岬にあるモニュメントに刻まれています。
梶井克也は、軽井沢の療養院にいる志穂子に絵葉書を送りました。
梶井はサモワールというグループで音楽活動をしていましたが、芸能界が嫌になり放浪の旅に出ていました。
志穂子は24歳になろうとしているが、6歳から18年間結核の療養のために軽井沢の療養院にいました。
やっと退院できる、そのきっかけを作ったのは梶井からの絵葉書でした。
しかし、なぜ梶井は志穂子に絵葉書を送ったのでしょう。
■作品を読んで
24歳にしてやっと社会に出る志穂子が梶井に会いに行くところから話は始まります。
そこで事務所の下の階の喫茶店でバイトするダテコに出会います。
ダテコは尾辻という男なら梶井の行方を知っていると教えてくれます。ちなみにダテコはのちに友達になります。
梶井は物語の序盤であの絵葉書は志穂子に送ったものではないと言ってしまいます。
しかしまあ、登場人物たちの事情がけっこうヘビーすぎる。
2人ともその年で人生に絶望めいたものを持っている。大丈夫か?と突っ込みたくなるのですが。
でもそこであきらめても、引いて逃げてもいけないんだと思います。事態は何も変わりはしないので。
物語の終盤になると志穂子と梶井に少しずつですが、変化が訪れます。
梶井はあの絵葉書は本当に志穂子に送ったものと確信し、志穂子に抱いている気持ちに気づきます。
志穂子は一方で尾辻に求婚されてしまいました。けど、結核の治ったばかりの体は子供を持てる状態ではないと医師に告げられます。
志穂子は結果的に梶井を選ぶことになるでしょう。なぜ「でしょう」という言葉を使っているのか、というと結論は1年間先送りになったからです。
なんというか、入院していたせいでいきなり社会に出たばかりで学業も修めていない、就職してもいない、ダテコが登場するまで友達がいなかったという24歳の女性にとっては、なかなかつらい状況です。一度に決めることは大変だと思います。
自分は子供の産めない体なのだ、結婚はできないとかたくなに思い込んでいますが、まずは自分の軌道に乗せよう、と志穂子は思ったのでしょう。
志穂子の幸福を願いつつ(著者いわく)物語は終えます。
■最後に
この物語は志穂子をはじめ何人かの人物の再生を描いた作品です。
いかんせん最後まで志穂子をきちんと描き切っていないのですが(著者いわく)。しかし、物語を読み進めていけば志穂子はきっとうまくいくと感じることができます。
ロカ岬に行ったことがあるのですが、ここに立つと何かがまた始められそうな気持ちになります。
まさにタイトルがそう語っています。だから志穂子は回復し、スタートに立ったのです。
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