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エッセイ

【彷徨う】303.『死ぬまでに行きたい海』著:岸本佐知子

投稿日:5月 16, 2021 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、岸本佐知子の『死ぬまでに行きたい海』です。

死ぬまでに行きたい海

 

■あらすじ

自称出不精の著者が、気になるところをふらりとめぐっては、気の向くままにエッセイとして綴ったものです。

どこか懐かしくもあり、消えた風景が残像のように浮かび上がってくるエッセイ集です。

 

■作品を読んで

まず、著者の編集した作品と翻訳本を。

240.「変愛小説集」編訳:岸本佐知子260.「掃除婦のための手引書」著:ルシア・ベルリン

なんとなくですが、「変愛小説集」のあとがきを読んでいて思ったのですが、この人はエッセイを書いたらあっちこっちあらぬ方向に行くような文章を書きそうだな、とちょっと思っていました。

結果は、その通りで期待を全く裏切らなかったです。ちょっと視点がいい意味でずれていて、それが面白かったです。

最初の何篇かは主に著者の過去について書かれています。エッセイはその場所に対してあれこれ書かれています。

ちなみに、著者は四谷にある上智大学を卒業後、赤坂見附にある酒を造る会社(サントリーらしい)でOLとして働いてから翻訳家になったのだとか。

本人曰く、会社でへまばかりとエッセイには書いているが、ここまで発想の違う人が一般社会に埋もれなくてよかったわ、と個人的には思います。

赤坂見附は著者が働いていたころ(バブル期)からだいぶ変わり果てています。当時通っていた店はほとんどなくなり、昔の面影は亡くなっています。まさか赤坂プリンスホテルまでなくなるとは(当時解体工事中)。

通りの名前は変わらないので、個人的にはGoogleマップを見ながら著者のたどった道を追いかけるのも楽しかったです。

会社員5年目に会社以外の居場所がほしくなり、翻訳学校に申し込んだのち会社近くの本屋で英和辞典を買い、それから翻訳家になったそうです。

この章はその本屋さんがゴールでした。それにしても、東京の変わる速さは目まぐるしくですね。30年くらい前の話のはずなのに。

確実に言えますが、どこの街もチェーン店だらけになり、本質的な風景は変わらなくなっているかもしれないですね。こうして四谷にある店の名前を列挙されると。

その次は多摩川です。これも著者の子どものころに出かけた場所をたどるものになっています。

とはいえ、きっかけとなった写真の場所も橋の架け替え等により変わり、映っていた片方のボート屋さんも廃業していました。偶然にも奥のボート屋さんの主人と話すことができ、写真の場所はここでいいことを言われましたが。

それにしても、店の主人もびっくりな写真を持っていたので、帰り際に大事にしなよ、と言って去っていきました。著者は気が付きます。また1つ子どもの頃の風景が消えていたことを。

トーコは田舎の出身なので慣れ親しんだ風景が少しずつさびれていってちょっと悲しいのですが、東京で生きる人も違う意味で風景が少しずつ失っているんだなと思ったのです。風景を少しずつ失っているのは誰もが一緒なのかもしれませんね。

YRP野比駅について書かれたエッセイもあります。京急線に乗った時に、「なんだこの駅名は。いずれはっきりさせねばなるまい」と思っていたようです。まあ、確かになじみのない人にとっては、なんだこの駅名ってなりますが。

さらに雑誌の連載の一環で書いた場所はいつか連れていくという約束の元、YRP野比駅について書いたのに結局連れていかれずに連載は終わったのだとか。

そのため、著者の中で余計にYRP野比駅への憧れが強くなっています。それにしても、著者にとってのYRP野比駅の響きはさながらSF小説のようですね…。

ちなみに、YRPとはヨコスカリサーチ・パークのこと。ここは、通信関連企業の研究所が集まっているところのようです。挿入されている写真はすごくのどかな風景です。なんか、都会に近いところでこんなお花が咲いている場所があるとは。

コロナが明けたら(まあ、距離的には遠くはないので今すぐにでも行きたいのだが)行きたい場所の1つである、海芝浦について書かれています。

なんでも行き止まりの駅で、通常はホームから出られないという都会近郊にそんな駅があるのかい、とツッコミたくなる場所だったはず。

実際に著者が行ってみた様子がちゃんと記載されています。とはいえ、風景を伝えるだけではないのがこの著者の魅力です。

なんだか、自分の思っていたイメージとは違ったようで、1度仲間とともに訪ねてから半年後に1人で再訪します。

再訪してもあまり変わっていないようです。イメージがだいぶ抽象的というか、常人にはついていけない何かがある人だな、と改めて思います。

まあ、そこが著者の魅力でもありますがね。発想がどこか違うなあ、と思わせてくれます。

最後のエッセイは昔の場所を友人と辿っていたはずなのに、友人が消えるのですからね。それはそれで衝撃的な終わり方ですが。

あと、このエッセイで挿入されている写真は著者のiPhoneで撮影したものです。なんかそれはそれですごく味があっていいのですが。

 

■最後に

街を見る目は人によって変わります。様々な思い出や想いが交錯する街を選んでエッセイを書いています。

著者の目から見る街はなかなか個性的で発想がぶっ飛んでいて面白いです。

 

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