こんばんわ、トーコです。
今日は、朝吹真理子の『きことわ』です。
■あらすじ
貴子(きこ)と永遠子(とわこ)は7つ離れている。永遠子は貴子の家族が所有する別荘の管理人の娘で、貴子たちが別荘に来ると一緒に過ごしていた。
2人が最後にあったのは25年前の夏休みだった。
それから25年経って、別荘が解体されるのをきっかけに2人は再会する。
■作品を読んで
この作品はびっくりするほど薄い本です。そしてありがたいくらいに安い。
でも中身はなんというか、思い出と現世をうまくつないでいて、時に淡い色同士で混ざったりととにかく現世とうつつをうまく交錯している、とにかく不思議な作品です。
非常に味わいがあります。なんか、作者に感謝したくなります。
淡い水彩画を見ているような気持ちになります。
冒頭は永遠子の貴子家族と25年前の最後に過ごした夏休みの場面です。
それがすーっと自然な形で現世に戻ります。こんな感触とともに。
時は過ぎる。こうしているいまもかくじつに過ぎている。夢をみている間も、永遠子のただひとつの身体は現実の時間をたしかに刻んでいた。
夢の出来事が本当にあった出来事なのか、境目が分からなくなる感覚。
なんかわかる気がする。あれはただのデジャヴなのか、本当にあったことなのか、まったく覚えてない。結構あるんだな、トーコ。
現代に戻り、永遠子は娘を見ながら料理を作っている。でもその料理法は貴子の母春子から教えてもらったもの。
永遠子は春子から他にもたくさんの料理を教わっていたことを思い出します。
これをきっかけにうつつの世界に戻ります。なんだか、寄せては返す波のよう。
記憶と今の世界がうまく折り重なっています。冒頭でも言いましたが、淡い色の水彩画のように見事に混ざっています。
別荘の解体が決まり、永遠子と貴子は25年ぶりに再会することが決まります。
当然ですが、25年ぶりとなると顔や姿が全く思い浮かびません。永遠子は一抹の不安を抱えます。
でも、そんな不安は不要でした。昔呼んでいたあだ名で普通に話をしているのですから。
まあ、そんなもんなのでしょうね。トーコも10年ぶりに会った中学校の時の同級生ともそんな感じでしたから。
貴子は解体前の荷物の整理を進めます。とはいえ、なかなか進みません。
この別荘が唯一春子の気配を感じられる空間だからです。
永遠子と貴子が最後に会った夏の次の年の春には春子は亡くなってしまい、3人で住んでいた家を引き払い、春子の気配を消してしまったのですから。
とはいえ、25年前の夏の日に会っていた永遠子、貴子、貴子の叔父の和雄の3人がそろったときの春子の話はちゃんと春子という人が存在していて、3人とも回想していることが伝わってきます。
ここは現実なんでしょうね。死者が媒介して現代につなげている。
最後に別荘は見事に解体され、更地になりました。季節が廻ればその時々の風景が見れます。
25年ぶりに会った永遠子と貴子は、これからもちょくちょく会うのでしょう。
会わなかった25年も、会うための準備と永遠子は思いますが、その通りなのでしょう。
人生そんなときもあるのでしょうね。
すべてを読み終わるとすごくふわふわした気分になりました。
ふわふわさの中にも、すごく芯の通った強さはあります。
解説でもありますが、本当の意味での官能小説なのでしょう。
■最後に
現世とうつつが見事に交錯し、淡い絵画を見ているような気分になります。
25年の歳月は変わるものも変わらないものも映し出します。
交錯する記憶と現実が見事に折り重なって、最後は夢を見ていたようにふわふわした気分になります。
[…] まず、朝吹真理子さんの作品をすでに紹介しているので、よかったらどうぞ。228.「きことわ」 […]
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