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【失ったもの】343.『偶然の祝福』著:小川洋子

投稿日:1月 23, 2022 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、小川洋子の『偶然の祝福』です。

偶然の祝福 (角川文庫)

 

■あらすじ

失ったものへの想いが、何かを連れてきた。息子と犬のアポロを暮らす日々の中に、何かを連れてきた。

独特の輝きを持つ連作小説である。

 

■作品を読んで

まずは、著者の小川洋子さんの紹介を。この方は『博士が愛した数式』という作品が最も有名です。そのイメージで行くといろいろやられます。

以下はこれまでにトーコが紹介した作品です。

73.『不時着する流星たち』269.『あとは切手を、一枚貼るだけ』著:小川洋子、堀江敏幸

269は共著なので、著者名のクレジットを入れています。

あと、日曜日の10時に読書会みたいなラジオ番組をやっていますので、興味のある方は調べてください。

さて、本編に参りましょう。

私は小説家のようで、幼い息子と犬のアポロと一緒に生活をしている。なんか、この設定が限りなく本人に近い気がしてくるのは気のせいか。

私は、小説を書くのに行き詰ると失踪者たちの王国について考えるのでした。思い起こせば、いつの時代にも私の近くには失踪者の影があったようで、少しずつ明らかになってきます。

最初は遠い人からスタートしていますが、19歳の時に伯母が失踪します。というか、このころにはうまく処理できるようになっていました。

その理由です。

その頃には既に、失踪の物語は私の中にかなり堆積していたし、流れからいっていずれこういう事態になるだろうということは容易に予測ができたので、さほど驚きはしなかった。

行方をくらました後、残された人が私のところにやってきて、失踪の物語を語り、すべてを言った後で感想を聞かずに去っていく。

この繰り返しによって、物語が残されていったのです。

この伯母さんの様子を回想し、失踪した後も伯母さんが集めていた嘔吐袋が役に立っていればいいな、と思いを馳せます。

私にとっての失踪者の王国は、慰め、そばに寄ってくれるかけがえのない存在なのである。

そうして気持ちは落ち着き、原稿を取り出して再び小説に向かうのでした。

次の作品の冒頭で、私の初めての小説が文芸誌に採用され、初めて原稿料をもらった時のことを回想します。

ここでも私は突然弟を亡くし、車にはねられ大けがを負います。そんな時に、ある女性と出会います。

この女性と話すようになり、ある時弟の物語を語ります。彼女も物語を語ります。その日の夜、私は小説を書きだします。こう思います。

長く失っていた言葉をつかみ取る感触が、ありありとよみがえってきた。難しくも何ともなかった。ただ彼女の声を胸に響かせるだけでよかった。

こうして再び小説を書くきっかけをつかみとったのでした。これがデビュー作として出版されるに至りました。

その次は、幼い頃家にいたお手伝いさんのキリコさんのこと。このキリコさんもなかなか特徴的な人物でした。

というのも、彼女の場合はなくしたものを取り戻す名人なのですから。失踪者の次はなくしたものを取り戻すって、一体なんのつながりなのやら。

彼女はとある事件によって、自主的に私のもとから去っていきますが、去る前に私が失った万年筆を渡します。

とある事件はキリコさんを失わせる結果になりましたが、キリコさんは事件の関係者から万年筆を手に入れていたのでした。

ある時、犬のアポロが病気になりました。そんな時に限って、病院はやっていない、やっと見つけた病院が遠くて悪天候の中歩く羽目になります。

悪天候で歩くのが大変で(病気の犬とベビーカーに乗せた赤ん坊を連れています)、もうだめかと思いました。

が、その瞬間に救いの手が現れます。男は2人と犬を車に乗せ、動物病院に送ってもらうことになりますが、その動物病院がありません。

なんと男は獣医だったので、車の中で手術することになります。それ以来犬のアポロは元気です。

その次の作品は、南の島に行った時のこと。小説を書くために先に前乗りしていました。

とはいえ、小説の執筆は思うように進んではいませんでした。小説を書く様子をこういいます。

小説を書く時、私はいつだって怖がっている。震える手で、息を詰めながら、一行一行そっと差し出す。

本当に大変なんですね。なんか、著者の気持ちを代弁しているかのようです。

そこで、男と出会います。彼は指揮者をしていて、奥さんと病気の療養を兼ねて南の島に来ていました。

2人とも何か運命的なものを感じ、愛し合います。その結果の息子です。

赤ん坊が生まれることになった時、男は指揮を振らなきゃならないんだ、邪魔しないでほしい、となんともまあ無責任なことを言います。

最後の章は「蘇生」。

ちょうど5か月になった息子が手術をすることになります。しかし、しばらくして私も手術することになり、なぜかしゃべれなくなります。

原稿用紙の升目に一つ一つ閉じ込めた言葉たちが、こうして積み上げられる。そして、自分が何かの間違いにより、その壁の外側へ落ちてしまったんだということに、ようやく気がついた。

因果応報かなんかですか…。失ったものを言葉にしているうちに、自分のことばを失いそうになる…。この解釈はあっているのか分かりませんが。

解決法は結構面白いので、それは読んでからのお楽しみに。壁の内側に無事に戻り、最後はアポロを呼べるようになっていました。

解説というか、読書面の引用になるのですが、この作品を取り上げていたのは川上弘美さんです。(199.『どこから行っても遠い町』の人)

というか、この解説がものすごく的確です。

小川洋子はどちらかといえば、「劇的な変化」を見せない作家である。どの時代の作品の中でも、「小川洋子の世界」は高次な心地よい安定感を保っている。…(略)。死なし、何かが違うのだ。何かが、微妙に。

…(中略)。失われず、これからも在り続け、辺りを暖めてくれるもの。そんなものたちが、作品のここかしこにひそんでいる。

これまで紹介している作品もそうでしたが、確かに「劇的な変化」はありません。めちゃくちゃ静かに展開されています。

失われたものの世界が小川洋子の世界なら、この作品はそのまんまです。

これからも在り続け、暖めるものがあることで、この物語が救いのない話ではなくなる。その危うい線を回避してくれています、見事に。

同時にこれがあるから、きっとトーコは忘れたころに手に取るんだろうな、きっと。

 

■最後に

この作品は、小川洋子の世界が遺憾なく表現されています。でも救いのないところまではいかない、不思議なラインを行きます。

劇的な変化はないけど、静かにそっと暖めてくれる名前の通りの作品です。

 

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