ある読書好きの女子が綴るブック記録

このサイトは年間100冊の本を読む本の虫の女子がこれから読書をしたい人向けに役に立つ情報を提供できればなと思い、発信しているブログです。

小説 文庫本 男と女

【夫婦ということ】144.『ふたりぐらし』著:桜木紫乃

投稿日:1月 16, 2019 更新日:

こんばんは、トーコです。

今日は、桜木紫乃の『ふたりぐらし』です。

ふたりぐらし

 

■あらすじ

映写技師の信好と看護師の紗弓は夫婦として暮らしている。紗弓の母親には結婚そのものを反対されているが。

些細な出来事も幸福に近づいていく。

夫婦って、いつから夫婦になって幸せになっていくのでしょう。

 

■作品を読んで

桜木紫乃さんの作品はこれまで幾度と紹介してきました。下に示します。

7.「裸の華」100.「砂上」

著者の作品全般に言えますが、トーコ的には人間の持つえぐみや闇の部分を、鋭く、時にはあっさりしすぎて美しさすら感じるように描きます。

たまにこうやって毒に刺されるような読書をしたいときにはおススメです。

が、この作品は著者の特徴が全くといいほど消えています。

全くは大げさですが、作品全体にすごく穏やかな時間が流れています。

人間の持つ感情もどうも優しく、どちらかというと見守るように描いています。

この著者はこんな作品も書けるんだなと、すごく作家の持つふり幅の大きさを感じました。

最初の頃の作品を2,3冊読んだら展開が一緒だったので、大丈夫かなと思ったのですが、杞憂でした。

では、作品の話です。この作品は信好と紗弓が夫婦となって少しずつ幸せに近づいてくる連作短編です。

信好は映写技師でしたが、技術の進歩により仕事がほぼなくなってしまい、看護師である紗弓の収入で暮らしています。

信好の母が亡くなる直前に、信好と紗弓の馴れ初めを話します。

偶然出会い、付き合いはじめ、紗弓の母親の反対を押し切り結婚し、今の状況であることを話します。信好の母親はそれを聞いた直後に亡くなります。

それから物語は進み、ささやかな嫉妬や疑い、秘密や嘘、どれもこれも夫婦2人で暮らすのには必要なことであることを2人は知ります。

それゆえに、時には腹の探り合いのようなことになってしまうのですが。

最後の2作品では信好も紗弓も夫婦というものに何か納得したり、核心を得るようなものを得ます。

信好の場合はこう。

隣に紗弓がいるあいだ、自分の真のかなしみには出会わずに済む気がした。ふたりでいれば、親の死でさえ流れゆく景色になる。

ふたりで乗り越えれば怖くない。本当の悲しみはきっとない。

ひとりを持ち寄ってふたりになる。寄り添いあうものがあるっていいのでしょうね。

紗弓の場合はこう。

近所のおばあちゃんと一緒に「リョウちゃん」という若い歌謡曲歌手のコンサートの帰りでの言葉。

年を取れば、どんな諍いも娯楽になっちゃうんだから

なるほどね。ふたりで過ごした過ぎ去っていった日々があるからこそ出てきた言葉。すごい。

夫婦ってこうして夫婦になるのでしょうね。

日々の何気ない出来事から、夫婦を維持していくのに、時には小さな嘘もすれ違いも必要なことだということを学び取ります。

夫婦のかたちはいろいろとある。何を良しとするかはふたり次第。

ひとりを持ち寄って夫婦になる。同じような方向を向いていればいいんだな、とちょっと温かく、ほっこりした気分になれます。

 

■最後に

日常にある些細な喜びも嫉妬も、時には必要な小さな嘘や疑惑も、夫婦になれば必要なこと。

少しずつですが、幸福になるところにたどり着くまでを優しく描いています。

著者の今までの作品にない作風です。

夫婦が夫婦になるまでの心の動きを穏やかに描いている作品です。

 

-小説, 文庫本, , 男と女

執筆者:


comment

関連記事

【幸せって?】383.『ミーツ・ザ・ワールド』著:金原ひとみ

こんばんわ、トーコです。 今日は、金原ひとみの『ミーツ・ザ・ワールド』です。   ■あらすじ 焼肉擬人化漫画を愛する腐女子の由嘉里が人生2回目の合コンの帰りに、死ななきゃならないと言い続ける …

【元気の出る本】142.「幹事のアッコちゃん」著:柚木麻子

こんにちは、トーコです。 今日は、柚木麻子の「幹事のアッコちゃん」です。 幹事のアッコちゃん   ■あらすじ アッコ女史が大活躍するシリーズの最終巻。この作品は初めてすべての作品でアッコ女史 …

【帰ってきた続編】404.『すべての月、すべての年』著:ルシア・ベルリン

こんばんわ、トーコです。 今日は、ルシア・ベルリンの『すべての月、すべての年』です。   ■あらすじ あなたは、以前出版された『掃除婦のための手引書』という短編集をご存知でしょうか。発売され …

【仕事と読書】353.『ビジネスに効く最強の「読書」』著:出口治明

こんばんわ、トーコです。 今日は、出口治明の『ビジネスに効く最強の「読書」』です。 ビジネスに効く最強の「読書」   ■あらすじ ビジネス界で無類の本好きの著者が、日経ビジネスという雑誌の月 …

【びっくりな旅】274.『わたしのもう一つの国』著:角野栄子

こんばんわ、トーコです。 今日は、角野栄子の『わたしのもう一つの国』です。 わたしのもう一つの国: ブラジル、娘とふたり旅   ■あらすじ 1954年24歳だった著者は、結婚したばかりの夫と …