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外国小説

【匂いと思い出】282.『海と山のオムレツ』著:カルミネ・アバーテ

投稿日:2月 7, 2021 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、カルミネ・アバーテの『海と山のオムレツ』です。

海と山のオムレツ (新潮クレスト・ブックス)

 

■あらすじ

南イタリアのカラブリアで育った著者が、その時代を彩った食とともに半生をつづっています。

想像するだけでおいしそうな作品が詰まっています。

 

■作品を読んで

カラブリアと言われ、思い出したのが、内田洋子の「187.皿の中に、イタリア」という作品です。

そういえば、魚屋の兄弟はカラブリア出身だったっけなあ。

さて、最初の話からおいしそうです。表題作「海と山のオムレツ」です。

一体どうしてこんなタイトルの本なんだ、と思ったのですが、読むと氷解します。

「海と山のオムレツ」はオリーブオイルに、卵、腸詰め、サルデッラ、オイル漬けのマグロ一切れ、赤玉葱、パセリ、塩胡椒少々。

腸詰めとオイル漬けのマグロ…、だから「海と山のオムレツ」なのです。それにしても、おいしそう。

幼かった僕は祖母の作るこのオムレツが楽しみでした。祖母と僕はそれを持って海に行きました。

祖母は僕に、祖先のアルバレシュ人たちがたどった歴史を教えます。その時に僕の持っていたオムレツを挟んだパンがカモメに奪われます。

カモメに取られてショックを受ける僕。そういえばトーコも中学生の時、宿泊学習でバーベキュー用の肉をカラスにとられたことがありましたなあ。

そんな様子を見かねた祖母が、祖母のオムレツを渡します。今度こそ、味をかみしめながら。その時の記憶をこう記しています。

僕はあのときの話の細かい部分までは記憶にないけれど、感動して聞いていたことは憶えている。そして、灯台や遠くに見える丘々、アリーチェ岬の上の光に満ちた空の眺めに見惚れていた。<海と山のオムレツ>の挟まったパンをじっくりと噛みしめながら。

食べ物の記憶は、その時食べていた時の出来事も一緒に記憶しているものです。まあ、トーコのバーベキューはカラスが強烈過ぎて味忘れましたが。

少年の日の僕にとっての「海と山のオムレツ」は、祖先がたどった道とこの日の記憶がよく刻まれていたのでした。

読んでいると、僕の置かれている状況に驚きます。

僕の父親は、村での仕事だけでは家族を食べさせることができないので、ドイツに出稼ぎに行ってます。僕も幼いころの夢が「ドイツに出稼ぎに行く」というものでした。

おそらくこの村は、おいしいものはたくさんあるのですが、暮らすには貧しい村なんだな、というのが分かります。

さすがヨーロッパで地続きだから、裕福な国の部類に入るドイツに行くのでしょうね。

のちに高校生になると僕は教員養成高校に通っていますが、地元の遊び仲間は皆ドイツに出稼ぎに行ってしまいました。そういう場所のようです。

しかも、教員養成高校も家からだいぶ離れたところにあるので、親元を離れ、下宿していました。

それでも、友達の親が「ごはん食べるかい?」と気軽に引き留めて食べさせる文化はすごいです。客をもてなす文化は神聖のようです。

16歳になり、友人がみなドイツに出稼ぎに行くと村に戻っても誰もおらず、1人でした。そこで、何歳か年上の学生ミケーレの家に遊びに行きました。

そこで初めて本棚を見ました。僕は教科書以外の本を見るのは初めてでした。そんな様子を見たミケーレは本を持って行っていいよ、といいます。

それからどんどん本を読むことにハマります。バイトしたお金で個人図書館の本をどんどん増やしていきました。

読みながらだんだんにこう理解します。

よい書物のページには本物の物語が大切にしまわれていることを理解していった。まるで、どんなときでも、どんな所でも、蓋を開けさえすれば、酔いしれ愛でることのできる貴重な宝石箱のように。どの物語も僕の人生の一部であると同時に、普遍性を持っていた。そしておいしい食べ物と同様、頭にも心にも栄養を与えてくれるのだ。

大学を卒業後、ハンブルクのイタリア学校でイタリア語を教えていた時のこと。1軒のレストランで懐かしい料理に出会います。

この料理を作っていたシェフは、幼い日に参加した婚礼の宴で調理場を仕切っていたシェフでした。久しぶりの再会に心躍ります。

シェフはフランコ・モッチャといい、彼は決して愚痴をこぼすことなく、ハンブルクで自分の世界を見事に作っていました。

それから、ハンブルクに行くと必ず彼に会いに行き、お手製の料理を食べながら、己のルーツに回帰しました。

彼の料理は、おいしいものを食べていた郷里の記憶がよみがえるからです。

なんとなくですが、トーコにとっては母の味なのでしょうね。就職し、家を離れるとなんとなくたまに恋しくなり、食べたくなる。

そして、家にいたころの記憶がよみがえる。分かります。

やがて、僕はハンブルクから北イタリアに腰を落ち着けることになり、シェフに別れを告げます。このときにシェフはこういいます。

どこへ行っても、その土地特有の味というものがある。いくつもの異なる土地で暮らすうちに、きみの舌にはものすごく豊かな味覚が養われるだろうよ。大切なのは、自分たちの土地の味に、新たな味を加えていくことだ。根っこの部分に郷里の味があるかぎり、べつの場所で暮らしていても、その土くれの香りは失われないはずだ。

なかなか深い言葉です。新しいものと出会い、どんな化学反応を起こすのか。根っこがしっかりしていれば、どんなものだって育つはず。

アルべリアのシェフはそうやって門出を祝います。両親はドイツに渡った後、再び故郷に戻ります。

このあたりでやっと、僕はカルミネ、つまり著者だということがやっとわかってきました。なかなかに遅い話ですが…。

僕は付き合っていたドイツ人の彼女とともに生きることを選び、結婚します。

そして、シェフは僕(著者)の結婚式にサプライズで登場し、料理をふるまいます。これぞ門出にふさわしい、故郷の味。

著者の人生には美味しい料理とともに彩られています。それにしても、出てくる料理を想像すればするほど、まあおいしそう。

食べてみたい限りですわ。

 

■最後に

人生の様々な場面で出くわす、色とりどりのおいしそうな料理。そんな記憶とともに、著者の人生が見事につづられている小説です。

食べ物やその匂いは食べていた時の記憶をよみがえらせ、様々な想いもよみがえります。

食べることにはこんな意味があるのです。

 

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