こんばんわ、トーコです。
今日は、吉本ばななの『イヤシノウタ』です。
■あらすじ
なんてことない日の奇跡のような瞬間や、かけがえのないこと。その土地の持つ力や自然とともに生きること。
人生をみつめるまなざしが眼差しが光る作品です。
■作品を読んで
まずは、これまで紹介した吉本ばなな作品です。
92.『キッチン』、155.『ハゴロモ』、261.『白川夜船』、281.『とかげ』
結構増えてきました。ほかにもまだまだいい作品がありますので、気が向いたら読んでは紹介し続けます、きっと。
それでは、本編に行きましょう。
ちょっと長めの目次が終わりページをめくると、忌野清志郎の「イヤシノウタ」の歌詞の一部分が現れます。
何だが、癒しの実体ってなにもないんだなと思わせてくれます。
1番最初のお話は、「私のほっぺ」。これは、子供のころから見守っているあっこおばちゃんとの話です。
85歳になるあっこおばちゃんは、訪ねに来た著者のほっぺを触らせて、と言います。
著者もエッセイ当時は50歳になりましたが、小さなころを知っている人はほとんどこの世にいないことをふと思います。
おばちゃんは、思い出がたくさんあるってことは本当に素晴らしいことだ、と言います。
著者は、その様子を見、いろいろなことが遠くに行ってしまったんだな、としみじみと思います。ここからは、引用します。
遠くにいってしまったものはなんでみんなこんなにも美しいんだろう。
でも小さいとき、ときどき私は未来の自分のまなざしを感じていた。
「なんてことないように思えることが、あとですごくだいじなことになるよ」
とそのまなざしの主はいつも言っていた。
未来の自分のまなざしを感じるって、なかなか感覚としてうまく表現したな、と思います。
ただ、1度や2度人生の中である気がするんですよね。未来の自分からのお告げじゃないですが。
それにしても、なんでこんなにスピリチュアルなことを普通に書けるんだ…。著者にとっては不通なのかもしれないですが。
なんてことないようなことを大切にする、ってかなり重要で、こうして振り返った時にいろいろなものが積み重ねているから。
なんてことないこともいろいろととどめていた方がいいんだな、と改めて感じた次第です。
その次の「世情」というエッセイ。
なんでも、twitterで自分の恋のことを書いて来る人がいて、その人は確実に40歳を超えている人なのだそう。
その人は、年下の子に間違ってメールを送信してしまい、告白したみたいになり、やけくそになって中島みゆきの世情をうたっているという、若者から見ればただのイタイいだけの光景。いや、今の20代はそれがイタい光景だとすら思わないかもしれませんけど。
著者曰く、若いころだったら、「ひえー、もう聞きたくない」と思ったそうです。
が、今ならこう思います。
いいねえ、人間は、それぞれみんなが同じ空の下でそれぞれのそんなようなことをして生きている、そういうところもいいねえ、と思う。
…。(中略)
妹に感じるみたいに、愛おしく思いながら。
こんな優しい気持ちを感じられる距離はとても大切。
そしてこんなに優しい気持ちをみんなが人に持つことができたら、みんなもっと楽になるのに。
年をとれば、感じ方も変わるのでしょうか。トーコもそうなってくれればいいな、とつくづく思います。
そして、末尾のみんなが人に持つことができたら、というところに激しく同意です。
みんなが持ってくれれば、ここまで殺伐とした雰囲気にはならないと思います。その一端を担っているのか、私たちは…。持てるように頑張りたいところです。
意外とはっとしたのは、「税理士さんあるある」という話。
当然著者は個人事業主なので、税務処理は単独でやろうとしない限り、税理士さんにお願いはしていると思います。ご多分にもれず、著者も税理士さんにお願いしているようです。
なので、それまでの税理士さん遍歴が記されています。
1人目は不動産取引の誤りは指摘してくれたが、著者に借金を申し込み、3分の1だけ返して逃げました。
2人目の税理士さんは1人目の息子さん。よくもまあ、この人を雇ったなと思いますが、いろいろな事情があったのでしょう。コメントは差し控えています。
3人目の税理士さんはとてもいい人で文句はなかったのですが、カネの面で折り合いがつかず、あきらめたそうです。
4人目の税理士さんは、やむなく子犬を連れて行ったときに完全無視していたのを見て、この人にそれぞれに大事にしているものを理解するのは無理なんだろうな、と思ったら本当にそうなったようです。
5人目の税理士さんは著者への教育が凄くうまかったようです。会社を持つこと、経費とは何かということを教えてくれたとか。それを直接的なキーワードでいうのではなく、ちゃんと理解できるようキーワードを言って教育してくれたのだとか。
お金の管理をしようとしなければ、生活レベルに波が発生します。特に一定の収入がない作家という職業ならなおのこと。
なんだか、お金の管理の大切さを改めて学べた気がします。
最後には、まさかの父吉本隆明との対談が収録されています。
家族として、作家としての疑問や想いがぶつけられていて、かなり親子を通り超した深い対談になっています。
なおあとがきで、父についてこう語ります。
別にサイキックだったわけではなく、父は私の書いたものを数枚読んだだけでそのできがわかった。長年プロの評論家として本を読むということはそういうことだ。私が人を見ただけである程度のことがわかるのと全く同じこと。
父親に対して、その道のプロとして尊厳を持っていることがわかります。このまなざしはすごいですね。
■最後に
様々なエッセイでいろどられています。この作品は「吉本ばななっていいな」という気づきや発見があります。
何か1つちょっといいなと思わせる部分が見つかる可能性は大ありです。