こんばんわ、トーコです。
今日は、彩瀬まるの「森があふれる」です。
■あらすじ
編集者は見た。
長年担当している埜渡徹也の妻琉生が植物の種を食べて倒れ、次の日には彼女の毛穴から植物の芽が出てきたことを。
様々な登場人物の視点から、この現象を見ていくという不思議な話。
■作品を読んで
このあらすじだけで、この作品が結構奇妙な話の部類に入りそうな予感がします。
けど、一気に読めます。おぞましいながらもなかなかに続きが気になる作品です。
とはいえ、トーコもちょうど移動中にこの作品を読んでおりまして、電車移動中に読み切ることができてしまいました。
小説家の妻琉生は、様々なものを夫から奪われ続けました。
夫の出世作「涙」は琉生とのSEXをあからさまに描いたもので、琉生はアルバイトをしていた親類の居酒屋でアルバイトができなくなりました。
また、夫の浮気や不穏な噂などに耐え忍び続けました。
そんな中、突然木の種を食べ、琉生は発芽しました。タイトルの通り、突如家に森があふれてしまいました。
そこから、様々な人物の視点から森にあふれている家について描きます。
作家を担当する男性編集者は、琉生の変化に大いに戸惑います。未知の物体を受け入れなければならないのですから。
しかし、そんな努力の甲斐はむなしく、作家の家に行った後の風俗通いがばれたのか、編集者の妻は子供を連れて家を出て行ってしまいました。
琉生の心の闇から生まれたと言っても過言ではない森が、こんなところにまで余波を及ぼしているようです。
というか、この男たちが地味ーにダメなのも原因かもしれませんが。
個人的には、編集者の男の後任の女性編集者に共感できるポイントが多かったです。
学生時代は一緒にいて面白かった恋人も、社会人になりいつのまにか嫌な仕事よりも大手企業にいるというステータスを守る方に必死になっていました。
埜渡の妻は、作家の出世欲のために、個人が分かる形で同意もなく作品になり、悪意なく行われていたことが。
女性の編集者はそれに気が付きます。
おぞましいことが起こっていて、それを女性だからと悪意を持つこともなく当たり前のように小説を読んでいたこと。
それは困ったことに現代社会でもたくさんあること。ちょうど今若干話題になっています。
もし、この小説の男と女が逆だったらどうでしょう。男が女に尽くす場合、きっと多くの人はこの男本当のところどうなんだろう、って思うはずです。
女性編集者の場合は、恋人、結婚しているので夫ですが、2人は2人の世界を見る決心をします。
最後は、小説家の妻琉生の視点です。
作家はこれまで妻と本気で向き合って来なかったに気が付きます。いや妻だけではなく、自分自身とも向き合って来なかったことに気が付きます。
ついに琉生と対話し、作家にも森が生えてきてそのまま森の状態でいることにしました。
最後は森が逆転しました。なんだそりゃ。現実がひっくり返る瞬間でもあります。
■最後に
設定はなかなか謎ですが、おぞましいのになぜか読み進められる不思議な小説です。
人の闇からできた森はやがてすべてをあたたかく包み込みます。
自分を見つめ直すきっかけになったことでしょう。