こんばんわ、トーコです。
今日は、原田マハの『デトロイト美術館の奇跡』です。
■あらすじ
2013年デトロイト市は財政破綻しました。財政再建の切り札に、デトロイト美術館の収蔵品を売却する計画が持ち上がりました。
果たして収蔵品の行方はいかに。
■作品を読んで
デトロイト美術館にはたくさんの有名な美術品が収蔵されています。ピカソ、ゴッホ、マティス、モネ、セザンヌ。
ほぼ有名な画家の絵は収蔵されています。しかも、アメリカもヨーロッパの美術館と日本の美術館とは結構仕組みが違うようです。
まず、お金持ちが美術館に自分のコレクションを寄付したり、財政援助を行うようです。
コレクターは実在の人物で、彼が生涯にわたって手放すことのなかったセザンヌの「マダム・セザンヌ」が一連の物語の鍵となって展開します。
1人目は、妻を亡くした老人です。彼は美術に全く興味のない人間でしたが、妻はどうやら違っていました。
妻はパート仲間からデトロイト美術館は面白いよ言われ、行ってみたら何時間もいることができ、パートの出勤時間ギリギリまでいたそうです。
それから月に1回は通うようになり、いつか夫とも行きたいと思うようになったそうです。
収蔵品の多いデトロイト美術館です。おそらく飽きないと思います。
トーコは絵を見るのが好きなのでわかるのですが、好きな絵を見つけられた時の喜びは最高なものです。ましてや、常設でもすごい質を誇るデトロイト美術館なら、絶対に興味のない人も自分の好きな絵を見つけることができると思います。
ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア、ウィーン、ニューヨークは大きく有名な美術館があり、とてもじゃないですが1日で見切れない量の作品が収蔵されています。
今列挙した都市の美術館にはいきましたが、はっきり言って何時間でもいられます。飽きませんし、好きな絵を見つけられます。
量が日本の美術館と比較するとケタ違いなのです。○○美術館展って美術館のコレクションのうちの一部ですからね。
話がそれました。
妻は夫がどん底のタイミングで美術館に行くことを誘います。夫は当時長年勤めていた自動車工場をいとも簡単にレイオフされたばかりの頃でした。
そこで、妻は美術館を「友だちの家」といい、夫を連れ出します。「友だちの家」と言えるレベルですから、相当絵画に親しみを持っているのでしょう。普通に誘えるのだからある意味すごい。
妻は病気になり、なかなか美術館に行くことがままならない状況で、デトロイト美術館に行くことを希望しました。
本当のところ、実際の美術館での運用も定かではないですが、正面から車いすで入りたいと事前に伝えて許可をもらい、車いすの介助の人も用意してもらえるというのはすごくいいなと思いました。
夢を与えている感じがあるように思います。日本の公共施設って事前に電話連絡をすれば施設側が配慮するのでしょうか。でも車いすの人用のスロープがあるしなあ…。
妻は最後の願いに、夫にこういいます。「私が死んだ後も会いに行ってくれる?」と。
夫は妻亡きあとも美術館に通い、「マダム・セザンヌ」に会いに行きます。そんなときに、驚きのニュースが飛び込んできます。
デトロイト市の財政破綻と美術館のコレクションの売却のニュースです。
第2章は、ロバート・タナヒルという実在のコレクターの話です。彼が生涯手放すことのなかった「マダム・セザンヌ」の持ち主でもあります。
彼なりの「マダム・セザンヌ」愛が詰まった章になっています。彼が手に入れなかったら、デトロイト美術館に寄贈されることはきっとなかったことでしょう。
第3章は、チーフキュレーターの男性が主人公です。
やはりここはアメリカ。雇用の仕方も日本とはだいぶ違います。
サンフランシスコの美術館でアシスタントキュレーターをしていた彼は、デトロイト美術館でキュレーターを募集していることを知り、面接を申し込み、無事に就職しました。
そして、パリ留学時代に研究していたのは、セザンヌの「マダム・セザンヌ」でした。「マダム・セザンヌ」のある美術館に転職できました。
それから、ロバート・タナヒルのコレクションを研究し、美術展を企画する仕事に従事し、心から充実していました。まあ、うらやましい。
まあ、美術の世界は日本もこうでしょうけど、一般企業も高度専門職や管理職とかは空きポストを狙って就職するという仕組みにきっとなるんでしょうね。なんか世の中の変わり目の片鱗を見れた気がします。
そんな平和に仕事をしていた彼にある事件が起こります。デトロイト市が財政破綻し、債務の返済のためには美術館のコレクションを売ることを視野に入れているというニュースでした。
美術館に勤めるキュレーターですら、新聞で知るほどの事件です。それほどまでに突然な出来事でした。
それからは大混乱でした。市民からは「美術館のコレクションを売るのか。もう見ることができないのか」という声、年金受給者からは「売却できるものは即刻売って換金し、年金に充てるべきだ」という声。
そんなある日、ついにクリスティーズの査定チームから連絡が来ます。査定チームはいきなり収蔵品リストの開示を求められ、美術館は市の施設である以上開示をせざるを得ない状況に追い込まれました。
主人公の男はチーフキュレーターでありますが、一方で家族を養わなければなりません、コレクションがすべて売却された場合、全員解雇になり、就職先を探さなければなりません。
そんな時に、最初の章の主人公の妻を亡くした男と出会います。「アートは友達で、ここに来れば友達に会える」という男に親近感をわきます。
チーフキュレーターだって、それは一緒。仮にこのコレクションが売却されれば2度とそろうことはありません。
そして、500ドルの小切手を渡します。多くの人はこのコレクションの売却を阻止し、いつでも会いに行ける状態を望んでいる。
チーフキュレーターの男は、しかと受け取ります。お金だけではなく、助けたいという熱意も。
第4章では、コレクションの管理代表として連邦裁判所で開かれる会議に出席します。
そこで、議論されたのは、寄付の呼びかけでした。なんと年金受給者の救済と美術館の存続を両立させるための起死回生の案でした。
その結果、各財団からの寄付金、自動車企業の財団からの寄付、ミシガン州から融資、美術館側での資金調達で計9億ドルの資金を確保しました。
年金受給者の救済に必要な額は8億ドルなので、無事に超えることができました。日本で同じことはきっとできないだろうなあ。
さらに独立行政法人化するので、今後は市の財政状況に左右されることなく運営が可能になります。これで無事にコレクションも年金も救済することができました。
巻末に著者と俳優の鈴木京香さんとの対談が収録されています。なんと、鈴木京香ってアート好きが高じて実際に絵画を買い、コレクションを持っているとのことです。ひょえ。
縁のあるものが手元にやってきて、所有することへの責任を感じているようです。もう死んだ後のコレクションの心配をしているようです。
バブル期にいたなあ、ゴッホとルノアールを買った社長が「私が死んだら絵画も一緒に棺に入れてくれ」と。
ふざけるな、馬鹿者。なんでそんな文化遺産をあんたの都合で勝手に処分するような真似をするんだよ。
まあ、当然ですがその社長の死後、別なコレクターにわたりましたけど。
■最後に
コレクションを守りたい人たちが起こした静かなアクションから、大きなうねりにつながった奇跡の物語です。
アートを愛する人たちの想いが伝わってきます。
[…] 290.「デトロイト美術館の奇跡」著:原田マハ […]