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日記

【びっくりな旅】274.『わたしのもう一つの国』著:角野栄子

投稿日:1月 1, 2021 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、角野栄子の『わたしのもう一つの国』です。

わたしのもう一つの国: ブラジル、娘とふたり旅

 

■あらすじ

1954年24歳だった著者は、結婚したばかりの夫と2人で、ブラジルに移住します。そこから2年間住み続けることになります。

やがて、恩師の勧めでブラジルのことを書きました。それが処女作「ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて」です。

それから、20年後、中学生になった娘とともにブラジルに行きます。

 

■作品を読んで

作品に入る前に著者について話します。というか、この人何を隠そうと「魔女の宅急便」の原作者です。

とはいえ、「魔女の宅急便」の著者という唯一の予備知識をもとに読んだら結構驚きの連続でした。

おそらく、女性の大学進学率は2%程度の時代に大学に進学し、やがてデザイナーの夫と結婚。それから、移民としてブラジルに渡りました。

当時なぜ移民としてブラジルに行ったのか、そもそも1960年代の旅行事情もこの本でかなりわかりやすく説明されています。

おそらく児童書という枠なのでしょうか、漢字がそこまで多くなく、表現もかなり平易なため、小学生の後半から読めると思います。

大人でもあっさりと読めてしまう楽しい旅の記録です。

1960年はコロナの今の世の中以上に海外に自由に旅行ができない時代でした。行ける人も国の試験を突破した国費留学生のみしか行けませんでした。

そのため、選んだ道は自費移民という方法でした。そこから2年間暮らしていたそうです。

1960年にブラジルに行くには飛行機ではありません。2か月間貨物船に乗り、地球を半周する旅をし、ブラジルに到着します。

すごい旅です。でも、若かったのか希望しかなかったようですよ。明るいわ…、船酔いとかあっただろうに。

それから、娘リオが生まれ、ブラジルでの日々が遠くなった帰国20年後、リオとともに旅をすることになりました。

ただし、2年間はかなりの節約生活を強要されたようですが…。生活までがらりと変えるくらいの節約生活だったそうです。

そんな苦労を重ね、母と娘で50日間の旅に出かけました。

まず、再訪してびっくりしたことは、昔住んでいた場所がとてもじゃないけど観光客が行ってはいけないレベルで治安が悪化していたことでしょうか。

まさかの20年経っての変貌ぶりに著者も、リオも愕然としました。でも、気を取り直します。

ビルの上からサンパウロの街を見たときの感想は三者三葉ならぬ二者二葉でした。母はビルが竹の子のように生えてきたといい、娘は宇宙都市って感じといいました。

姿を知っているものとそうでないものの差でしょうか。感想が見事に分かれます。

でも、娘リオも当時13歳。思春期真っ只中の子にとって、ママの用意する食べ物を買ってもらい、言語が分からないためしゃべるのも母という生活にイライラが出てきたようです。娘もなかなかに自立してますわね。

そんな娘はサンドイッチを買いに行くといい、著者はついでにお使いを頼みます。

そこで宣言したことを止めず、ついでにお使い頼むとは…。やっぱり違います。普通の人は頼まないし、リオの行動を止めると思う。

流石に著者も心配はしていたみたいですが、リオは無事に帰ってきました。

50日間の滞在中、母娘はブラジル中を旅します。ブラジリア、サルバドール、リオデジャネイロを回ります。

ちなみに、娘リオの名前の由来は、リオデジャネイロから来ているようです。おお。

ブラジリアはリオデジャネイロから遷都したばかりで、1960年代前半は首都といっても何もなかった場所でした。

ところが20年経って再訪すると、ちゃんと街になっていました。著者は驚いていましたが。

ブラジリアの全貌は著者によるものすごい分かりやすい解説で理解することができます。この書き方は本当に小学生でも理解できると言えます。

それから、移住した日本人が経営する農場に行きます。この方は5つの農場を経営しているようです。面積だけで見てもものすごく広いです。

案内しながら途中で、経営者の男性は、畑でニンジンを抜く子供たちに小さなニンジンの抜き方を教えていました。

その光景を見て、さっきまで大きな農園を持っていて羨ましいなんて思っていた人の姿ではありませんでした。そしてこう思います。

働くっていうこと、生きていくっていうことは、小さなことを一つ一つ大切に思ってやりぬいていくことなのだ

奥の深い言葉です。

小さなニンジンをきちんと抜かないと次の作物を植えるのに影響を与えますし、セーターの目を1つでも外せば編みあがらないし、原稿用紙のマス目を心をこめて埋めないと作品が仕上がらない。そのあとに引用の言葉が続きます。

この1年間、小さなことを一つ一つどれだけ大切にできたのだろう。ちょうど読んでいたのが年内最後の仕事の日の移動中だったためか、余計にそう振り返りたくなりました。

小さなことをコツコツ、馬鹿にしないでちゃんとやる。そう思いますし、それが人を作るのだと信じたいです。

2020年は旅をすることができなくなりました。そんな時に、明るく、ずいぶん楽しい異国訪問記を読めて本当にラッキーだな、と思います。

最後に著者にとっての旅の醍醐味を。

国の数だけ、人の数だけちがったくらしがあるのでした。旅をして、そういう人たちと知り合い、ちがった生き方を知ることが、わたしの最大の楽しみです。

景色も見たいけど、写真やGoogle Earthで見れます。けど違った生き方を知るということは、絶対にGoogle Earthで見ることはできません。

旅する意味ってここなんだな、と思いました。

 

■最後に

すごく平易な表現で、漢字の使用量もかなり抑えられています。これなら、小学校3,4年生からも読めます。

もちろん、大人が読んでも面白いし、遠い異国の旅日記は旅に出たくなります。こんな時だからこそ、旅に思いを馳せることができます。

 

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