こんばんわ、トーコです。
まずは、恩田陸の『祝祭と予感』です。
■あらすじ
『蜜蜂と遠雷』の登場人物たちが帰ってきた。
亜夜とマサルと塵が亜夜とマサルの恩師綿貫先生の墓参りに出かけたり、審査員のナサニエルと三枝子の出会いとその後、作曲家の菱沼が課題曲をつくるきっかけとなったエピソードなど。
もう1度『蜜蜂と遠雷』の世界に浸れます。
■作品を読んで
あらすじでも触れている通り、登場人物等は363.『蜜蜂と遠雷』を参考に読んでおくと、より世界に浸れます。
実は、ひょっとするとスピンオフがあるのではないかと踏んでいました。恩田陸作品って、スピンオフが結構多いんです。
以前紹介した32.『六番目の小夜子』や『夜のピクニック(まだ紹介していません)』のスピンオフが収録された『図書室の海』という作品があるくらいです。(『図書室の海』は厳密には、スピンオフ以外のオリジナルの短編もありますけど)
という理由でひょっとしたらあるのでは、と思っていた次第です。
それにしても、単行本1冊まるっと同じ作品のスピンオフってある意味すごいです。それだけ『蜜蜂と遠雷』の人気があったんだなということを物語っています。+スピンオフのネタとなる登場人物があまりにも多いというところでしょうか。
長くなったので、作品紹介に移りましょう。
まずは、「祝祭と掃苔」です。ここで、掃苔とは墓参りのことです。
コンクールで再会した亜夜とマサルは恩師の綿貫先生の墓参りに行きます。そこになぜか風間塵も一緒にくっついていきます。
墓参りを終えながら、風間塵の家族のこと、コンクールで塵の師のホフマンから「楽譜通り弾け」と強く言われていたこと、塵が「お姉さんとセッションしたい」と言ったら、マサルも「そういえばあーちゃんとラフマニノフの連弾まだやってない」と思い出すこと。
入賞者ツアーの最中なのに、仲良く掃苔ツアーをやっているのだから、余裕というのか、何なのか。
最後に恵比寿の激辛ラーメンを食べようと言って終わります。なんだろう、この束の間の休日…。
その次は、「獅子と芍薬」です。
この話は、コンクール審査員の三枝子とナサニエル・シルヴァーバーグの若かりし頃の出会いからスタートします。
というのも、この2人の場合は1位なしの2位2人というミュンヘンのコンクールで、2位の2人に見事に該当していました。
ナサニエルを見た三枝子は、文句を言いながらも悔しさのあまりに泣き出してしまいます。その気持ちはナサニエルも一緒でしたので、しまいには2人とも泣き出していました。
さらに2人ともホフマンに弟子入りを申し込んでいましたが、1位なしの2位という結果にホフマンが2人を弟子として認めることはなかったようです。
だから2人ともホフマンの弟子と言って現れた風間塵に対して、はじめは複雑な感情を持つのでした。
コンクール入賞者ツアーを回っている最中に、パーティーで影に隠れていたナサニエルは三枝子に声をかけられます。三枝子は振袖を認められるための戦闘服と言い切り、「ここで生きていく」と宣言します。
なんか、影に隠れてるってナサニエル・シルヴァーバーグって弱いなと思います。若いころ、えっと18歳とかそんなころ。
しかもナサニエルが見事に三枝子に惚れてしまい、求婚し、結婚、別れます。現在の2人は別な相手との間に子どももちゃんといますが。
それなので、この芳ヶ江コンクールの頃は出会ってから30年以上経過しています。当然ですが、2人は年を取りました。
けど、互いの気心は知れているし、再会してもブランクを忘れて話すことだってできます。なんというか、夫婦を超えた存在になっている気がします。どちらかというと、戦友というか。
そんな大人たちの話もあったりします。
「鈴蘭と階段」は、亜夜を応援し続けた学長の娘の奏が主人公。
彼女は芳ヶ江コンクールの後バイオリンからヴィオラへ転向し、新しいパートナーとなる楽器を決めている最中でした。
そんなある日、亜夜から電話が来ます。亜夜は、コンクールで2位受賞後、パリに留学しているはずでした。
何だろうと思って電話を取ると、亜夜はパヴェル先生というチェコのヴィオラ奏者の家に風間塵を迎えに行ったところ、家の中から流れてきたヴィオラの音を聞いて、奏がヴィオラを弾いていると何の違和感もなく思ったのだとか。
風間塵も同じことを思ったらしく、確認がてら奏者を改めて見たらパヴェル氏でした。パヴェル氏にこの話をしたら、パヴェル氏もびっくり。
パヴェル氏がこの時弾いたヴィオラは、普段替えでも使用しないヴィオラをなぜか今日は手にしたのだとか。なんというめぐりあわせ…。
パヴェル氏にもこの話をしたところ面白がり、日本にいるアマチュアの奏者にヴィオラを譲ってもいいと言います。
さらに、チェコフィルの来日公演が週末からあり、その時にもってきてくれるところまで話が出来上がっていたのです。
ここで、パヴェル氏は今年が定年退職のため、もう来ないとまで言われる始末。奏はいきなり大決断を迫られます。
しかもスマホ越しで聞く音でゾッとするほどの戦慄が走ります。弾いてみたらもっと切実に感じました。
結局、パヴェル氏のヴィオラを奏は譲りうけることになりました。奏の相棒はこれで決まり、一体どんな音楽を奏でることになるのでしょうか。
楽しみだけど、恐さもある。けど、何か確信している感じ。きっとうまくいくと思います。
他にも、マサルとナサニエル・シルヴァーバーグとの出会いと、なぜにマサルがピアノ以外の楽器も触れるのかという話や、ユウジ・ホフマンが風間塵と出会った時の話、作曲家菱沼が課題曲「春と修羅」を書くに至ったエピソードが収録されています。
なんというか、『蜜蜂と遠雷』の興奮とはまた違う登場人物たちの素顔が見れます。個人的には、審査員の2人の若かりし頃が逆に激し過ぎてビビりますけど。
ちなみに、なぜ『祝祭と予感』というタイトルなのかは、読み進めればわかります。
■最後に
『蜜蜂と遠雷』のあの登場人物たちに再び会えます。なかなか濃い話が飛び出してきます。
『蜜蜂と遠雷』を既に読んだ人もそうでない人も素直に楽しめます。