こんばんわ、トーコです。
今日は、宮部みゆきの『小暮写眞館』です。
■あらすじ
高校生の花菱英一は、古い写真館付きの住宅に引っ越すことになる。変わった両親もここまで変わっていたかと何とも言えない思いを抱えていた。
そんな時に、1枚の写真が持ち込まれ、英一はなぜか謎解きを始めることに…。
■作品を読んで
この作品は単行本が2010年に出版され、その当時のトーコは読んでみました。やがて、2013年には文庫本化されました。
それにしても、いい表紙ですね。どこの路線でしょうかね、非常に味があります。とはいえ、小説の舞台は都内なのですが…。
なんでか知りませんが、新潮NEX文庫からは4冊組で出版されています。写真のは講談社文庫で2冊組なのに、まあ不思議だ。
再び手に取って読もうと思ったのが、2022年の初頭です。話の内容はかなり忘れていましたが、小説の世界観は憶えていたようです。
とはいえ、12年前の自分が一体何を思っていたのかは辿れないのがちょっと悔しいです。でも、今度は辿れますね、ブログのおかげで。
まあ、そんな感想は置いといて、作品に行きましょう。
登場人物は、実の弟にまで苗字の花菱から花ちゃんと呼ばれている高校生の英一と、何気に頭のいい小学生の弟の光(通称ピカ)、変わり者の父と母の4人家族です。
物語の始まりは、新しい家に引っ越しをしたところからです。花菱家悲願のマイホームは、築33年の店舗付き住宅でした。
父親曰く、店舗の部分を残して住もうと。この家は元々写真館でした。写真館のスタジオ部をリビングにし、「小暮写眞館」の年季の入った看板も掲げたままにします。
父親曰く、「もったいない」のだそう。なんか、ずいぶんズレた方だなあ、と爆笑ですが、微妙なお年頃の少年から見れば奇異なことにしか見えません。
このところどころに入って来る、英一の冷静なツッコミがまあ面白いです。彼がちょっとだけ常識人なことだけはよくわかります。
英一は両親のこの一連の行動を見るに、慣れられないと思うのでした。
高校生ですからね…、まあ微妙なお年頃ですよね。
おそらく、最初に読んだ時は大学生の時なので、今よりもきっと英一の気持ちが分かったのでしょうね、きっと。トーコは、高校生からだいぶ通り過ぎましたからね。
戻ります。
で、そんなある日、ある写真が持ち込まれます。それは、ありえない場所に女性の顔が浮かんでいる心霊写真でした。
英一は全く気乗りはしないのですが、小学校以来の付き合いの親友店子力(通称テンコ)と共に謎解きを行います。
高校生の謎解きもまだスマホの登場前のせいでしょうか、結構アナログだなあと思います。手がかりやつてをたどっての聞き込みが8割ですからね…。
途中高校生らしく、高校の同級生こげぱんと呼ばれる女の子やこげぱんが好きな橋口などが登場し、英一たちの高校生活も垣間見ることができます。
また、小暮写眞館を売ったST不動産の須藤社長や事務員のミス垣本などちょっと魅力的で癖のある大人たちも登場します。
最初の女性の心霊写真は、映し出された女性を前にこんな会話が展開されます。
「過去って、写真で写せるのね」
「写真に撮ったものは、みんな過去じゃないですか」
「ああ、そうねぇ」
(中略)
「でも、これって何でしょうね。心霊写真じゃないわけだから」
そうなのだ、結局、どういう現象になるんだろう。
「念写、かな」
ここで、念写とは頭に思い浮かべた映像をフィルムに焼き付ける力を持つ力のことのようです。
こうして、心霊写真はお焚き上げされてきます。実は、こんな感じの作品が4篇あります。
同じようなノリで続くのかと思いますが、これが腕の見せ所といいますか、さすが宮部みゆきです。いろいろと伏線を入れてきます。
心霊写真謎解きで英一の友人のテンコやコゲパン、橋口と交流を深めたり、少しずつですがST不動産のミス垣本に思いを寄せたり。
特にテンコはなかなか強烈なキャラです。お父さんもなかなかの変わり者で、なんで家で野宿をするんだか…。家自体が日本庭園のあるかなり立派なお宅のようです。しかも、英一専用の寝袋があるって、どんだけの常連さんよ。
英一の弟ピカも英一の友人たちに可愛がられたり、頭のいい子なので、要所要所で活躍します。とまあ、こんな感じでかなり魅力的な登場人物たちが出てきます。
最後の作品では、なんと家族の秘密まで明らかになってきます。
英一とピカの間には、風子という女の子がいました。しかし、病気をこじらせてしまい亡くなります。風子の葬式の際に、父親の親戚から総攻撃ではないですが、かなりいろいろと言われ、そこから父母共に親戚付き合いの一切が絶たれます。
ひょうひょうとした両親の意外な姿を目撃します。というか、固い決心です。
そして、祖父が亡くなり、法事に英一が出席します。そこにピカの家庭教師という設定で垣本もついていきます。
英一は法事に出席して気がつきます。この親戚たちも普通の人間だ、と。で、3ページくらい英一は両親の代わりに(いや違うが)啖呵を切ります。
身内だからって、言っていいことと悪いことがあります。時間が経ったって、許せることと許せないことがあります。
(中略)
何かあると、いっつも誰が悪いか決めなきゃいらンねえのも、あんたらの勝手だ。それがあんたらのやり方なら、いいよ、好きにしな。
なかなかです。高校生が…。頑張りましたね。
しかし、この出来事のあと、垣本は突如失踪します。それからというもの、英一の進学先が決まったり、親戚付き合いとの雪解けが発生したり、ちょっとだけ変化の兆しが見られます。
途中、小暮写眞館の主のおじいさんの話も出てきます。自分の写真が少ない人でした。なんか、昔がたきの人ですね。
解説にて、宮部みゆきがこの作品を書いたいきさつについて触れられています。
『模倣犯』を書いたときに、著者自身がかなり残酷なことをしてしまったという後悔と自責の念に駆られたそうで、読者の評価がなかったらもうやっていけないレベルの状況だったそうです。
現代もので重たいミステリーっぽいものは書けない、重たくなくて、犯罪の出てこない現代ものを書く。そんな中で描かれたのがこの作品です。
なんというか、この作品の持つあたたかさはそんなところから出てきているのだな、と思いました。実は、著者自身も普通の人なんだろうなと思うのでした。
■最後に
宮部みゆき流の家族小説です。個性的な人物たちが笑いあり、ちょっとだけ涙ありの現代ものです。
人の想いがあふれた、暖かい小説です。
■関連記事
これまでに紹介した宮部みゆき作品です。
『ソロモンの偽証』は、文庫本で6巻分という大長編です。とても壮大な作品ですが、エネルギーが滅茶苦茶いりますので、先に分量だけはお伝えします。
『ほのぼのお徒歩日記』は、宮部みゆき史上初めての小説以外の本の増補改訂版です。テンションはゆるいのですが、中身はなかなか濃いお散歩日記です。