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【驚きの展開】437.『朗読者』著:ベルンハルト・シュリンク

投稿日:11月 8, 2022 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』です。

 

■あらすじ

15歳のぼくは、母親くらいの年齢の女性ハンナに恋します。ハンナは会うたびに、ぼくに朗読するようにせがみます。

ある日、突然ハンナは失踪します。それから、ぼくは大学生になりました…。

 

■作品を読んで

15歳の体験としての設定も十分衝撃だったんですが、このあらすじに書かれている内容は、物語の約4割くらいまでの話です。

残りの6割は怒涛の展開を迎えます。こう来るんだ…、と驚きを隠せないです。

さて、それでは作品に行きましょう。

ミヒャエル・ベルグは、ひょんなことからハンナに出会います。それは、病弱だったミヒャエルが外にでたときに気分が悪くなり、介抱したのがハンナでした。

のちにハンナに恋に落ちた瞬間を理解することができたのですが、ハンナがストッキングを履く動作で恋に落ちたようです。

通常、ストッキングを履く行為は女性が男性に媚びを売るようなこともままありますが、ハンナは全く媚びずに優雅に履いていたとミヒャエルは振り返っています。

ハンナは母親と変わらないくらいの年齢の女性で、市電で働いています。そんな女性に恋に落ち、身体の関係も持ちます。そしてなぜか、ミヒャエルに朗読するよう頼みます。

ギムナジウムでの進級で、ミヒャエルはゾフィーという女の子に心が傾きます。少しずつですが、ハンナが邪魔になってきます。

ミヒャエルはいつも通りハンナの家に行き、抱いて、朗読をして帰ります。しかし、次の日にはハンナはアパートを引き払い、職場にも2度とこないことになりました。

ミヒャエルに何も告げずにハンナは忽然と消えました。当然ですが、ミヒャエルはハンナを探しますし、恋焦がれます。

しかし、次第にハンナがいなくなった事実を受け入れ、ギムナジウム卒業から大学生へと移ります。

ギムナジウム卒業から大学へ入学し、大学生活は苦労のない幸福な生活でした。このころをこういいます。

高校卒業試験と、困惑の末に選んだ法学という専攻は、むずかしいというものではなかった。友情も、恋愛も、別れも、何もかもが簡単だった。すべてが簡単に思え、すべてが軽かった。だから、思い出の量もこんなに小さいのかもしれない。それとも、ぼくが小さいと思っているだけだろうか?

ハンナとの突然の別れは、17歳のミヒャエルに影を落とします。

それからのミヒャエルは、深入りするほど人を愛さなくなり、屈辱感を味わわないよう、高慢で優越的な感情を身につけ、周囲にもそうやって振舞いました。

まあ簡単に言えば、ハンナとの過去をうまく清算することができず、たんに蓋をしただけで、向き合うのをやめたといったところでしょうか。

というか、17歳の少年がこの唐突の別れをうまく整理することは出来ないとは思いますが…。

しばらくして、ハンナと再会することになります。場所は、法廷です。

この裁判は、ナチスドイツ時代の戦争犯罪について、ニュルンベルク裁判ほどではないですが、アウシュビッツで看守していたものの裁判等が実施されていました。

ハンナは、自ら志願してナチスの親衛隊に入り、看守となり、アウシュビッツでの大虐殺に加担します。本人は決して殺したかったわけではないのに。

ここで、この作品の裏テーマが出てきます。

ミヒャエルの親世代は、ナチスドイツ時代には戦争に加担せざるを得ない行動をした方も多くいます。生きるために。

とはいえ、ミヒャエルの父親は、大学でスピノザを講義しようとしたら、大学から追放されるという憂き目に遭っています。

同級生の父親のなかには、戦争に行った人もいますし、中には将校や政府の高官だった人もいます。

本気で人を殺してもいいと思った人はいないですが、結果的に戦争には加担しています。ミヒャエルが参加した法学ゼミでは、その親世代が犯した罪を裁判に参加して、法的な再検討と啓蒙の作業を行っていました。

歴史教育としても、これまでが全否定され、外国に行ってもドイツ人というだけで白い目で見られる。けど、戦争を知り、過去を清算したいという学生の想いも分からないではないです。日本人もそうですからね。

ミヒャエルは、法学ゼミのみんなで行った裁判でハンナに再会します。

ハンナについて次から次へといろいろな事実が分かります。というか、1番ははハンナが文盲だったことがばれないようにするために、いろいろと罪で上塗りしていったのではないかということでしょうか。

ミヒャエルは戸惑います。時代背景としては、ナチスドイツとの過去との対決と言ってますが、実際は世代間の葛藤が学生運動につながっていた部分も否めない。まあ、実際はミヒャエルは学生運動には参加していませんが。

ミヒャエルの父親は戦争に行ったわけではないので、親を憎む必要もないです。しかし、好きだったハンナが戦争に加担していたという事実は受け入れがたいものでした。

この作品のもう1つのテーマ、もし自分が好きになった人が戦争犯罪人だったら…、が出てきます。

ミヒャエルはこのテーマに向き合わざるを得ない状態になります。とはいえ、ミヒャエルはこの時代の若者であることに酔いしれている部分がないわけではないですが。

結局、裁判の結果、ハンナは刑務所で服役することになりました。ミヒャエルはハンナのために朗読テープを送り続けました。

ミヒャエル自身は若くして結婚しますが、娘をもうけて離婚します。ちょくちょく会っているので、知らぬ者同士ではないですが。

最後までハンナとの交流を描いています。18年の服役期間によってハンナはいつの間にか老人になってしまいましたし、ミヒャエルもいい年になりました。

しかし、出所できるというところでハンナは自殺します。悲しむ暇もないのですが…。唯一生きていた実の娘も、遺産の小切手は受け取らず、缶だけ受け取ります。うわ、すごい展開…。想像がマジでつかないです。

戦争がこんなところにまで影を落としているんだな、と思い知らされます。

著者のベルンハルト・シュリンクがモデルのように言われていますが、この方はミヒャエルのようなドラマチックな恋愛経験はないようです。

しかし、この作品は学校の教材として取り上げられ、様々な議論がなされてきました。深く考えさせる要素が満載ですからね、この作品は。

 

■最後に

読んでみてびっくりの作品です。あらすじからは想像もつかない展開を迎えます。

一筋縄ではいかず、読み終わった後には愛した人が戦争犯罪者って…、と考えたくなる作品です。

 

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