こんばんは、トーコです。
今日は、キム・ミンジュの『北朝鮮に出勤します。』です。
■あらすじ
タイトルのまんまです。この作品は、開城工業団地で働いた韓国人の女性の方の目線から、見た北朝鮮の人々との人々の交流です。
開城工業団地は、韓国の首都ソウルから1時間ほどの距離にあります。しかし、その先は閉ざされたままです。
開城工業団地で働いていた経験と、そこで見た北朝鮮の人々を描いている、ノンフィクションです。
■作品を読んで
この方は給食施設と言う施設で働いており、当時工場長として赴任しました。なので、北朝鮮の人からは「先生」と呼ばれていました。
著者が韓国の給食業者に就職し、北朝鮮に派遣されることを選んだのは、北朝鮮の食料問題に関心を持ったからです。韓国の政府機関と国連世界食料計画(WFP)の勤務経験後、韓国で栄養学の修士号を取った後、開城工業団地に派遣されました。
あとがきにも書かれていますが、この方がなぜこの文章を書こうと思ったのは、開城で栄養士として働いた1年ちょっと。2015年4月に開城工業団地で働き始めてから翌年の2月位には開城工業団地が全面操業停止になったので、同僚と突然別れを告げることになりました。
その頃、北朝鮮が核実験や長距離弾道ミサイルの発射により、北朝鮮と韓国の関係はかなり悪化していました。つまり、政治情勢の悪化により、開城工業団地は操業停止に陥ったのです。
しかし、民間人の著者にとっては本当にある日突然です。連休明けにはみんなに会えるし、職場周辺に荷物を置いたままなので、引き取ることもままならない状態です。だから、残しておこうと。
それでも、北朝鮮の人と働いたことのある方の経験は、韓国だけでなく、ちょっと離れた日本でも、聞いてみたいと思うもの。
こう言った本というのは、ありがたいです。
では、北朝鮮の人達ってどんな人というと、存外普通の人達なのかもしれません。
朝超早く職場に到着し(確か6時だったかと)、周囲を掃除し、途中の休憩時間中に家の洗濯物を洗って干すということをしているようです。ちなみに帰宅時間は、20時。なかなか過酷です。
著者は突っ込んでないですが、おそらく北の普通の方(それでも開城工業団地に働きに来る方は、一般の人よりもちょっといい生活水準らしいです)は、洗濯機がないようです。だから、職場に洗濯物を持ち込んでいるのでしょう。
つぎに、よく食べ物が盗まれます。まあ、目の前に美味しいものがあって、それを家族に食べさせたいと思うのが人間のようです。ちょっと黙認する部分はあるけど…。
仕事中の、ふとした瞬間になかなか格差を実感させられる出来事が詰まっています。結構、そういったエピソードは枚挙にいとまがありません。
また、北側の免税店で「北朝鮮の化粧品は高品質!」と言いながらも、実際は見えないところで韓国製のコスメを使っていたり。なかなか悲哀を感じさせずにはいられません。
北朝鮮の食べ盛りの若者の兵士たちの話も切ないです。そもそも、南と北の人の身長・体重等の体格が違います。文章で1発でわかるレベルです。
著者は、平日は開城工業団地周辺に住み、休日は軍事境界線を超えて南北を行き来します。もちろんですが、国境を超えるので、毎回検査が入ります。
その中に、職場の同僚たちに頼まれて買ってくるものもあります。モコモコのブーツ、果物等です。
手に入らないんだなあ、と思いつつ、品質の良いものが安く手に入るならそうなりますね、と思うトーコもいる。
政治的な面ではツッコミどころ満載の北朝鮮ですが、その政治的体制を信じきっていることを除けば、1人1人ベースで見ていけば概ねいい人たちが多い…。
それが開城工業団地の一面でしょう。
著者に向かって、「先生(職場内ではそう呼ばれている)は、働きにきたのであって、政治的な話をしにきたのではないでしょう。」という言葉が刺さります。確かに…
著者としては、そういった体制に対していい印象を持っているわけはなく、実際に暮らす人々はどう思っているのかを聞きたかったそう。
しかし、それを聞くことができぬまま、開城工業団地は突然閉鎖されることになりました。
なんだか、海の向こう側の国ではこんなことになっているんだなあ、と現実をちょっとだけ知ることができました。
■最後に
報道やニュースでも知ることのできないものを知ることができ、ちょっとうれしい半面、現実はちょっと重いなと思いました。
どうなるかはわかりませんが、こういった現実があることを知れるのも本の魅力です。
北朝鮮の人々って、1人1人ベースでみていくといい方が多いものですね。世界は捨てたものではありません。