こんばんわ、トーコです。
今日は、阿川佐和子の『タタタタ旅の素』です。
■あらすじ
焦りは事故のもと。ケチはトラブルのもと、そして後悔は、次への期待のものです。
何が起こるかわからない。予定通りにいかないからこそ、旅は面白い。そんなドタバタ旅を綴った作品です。
■作品を読んで
まずは、これまで紹介した阿川佐和子作品を。
旅に行けないシーズンに読んだせいか、無性に旅が恋しくなりました。
それにしても、『残るは食欲』に見られるように、なんか妙にドタバタな感じが残っている作品でもあります。
というか、本書の方がだいぶ昔に出版されていた作品です。平成11年って書かれていて、文庫本の出版がされていませんね、現在。
ということは、20年以上著者の性格というか本質は変わっていないのでしょうか、って大概の人間は時を越えてもその人の本質は変わりませんけど。
さて、本題に行きましょう。
最初のエッセイのタイトルは、「ケチ・コレ」。なんのこっちゃ、とツッコミたくなるタイトルです。読んですぐに、謎が解けます。
今、ウチの洗面所の抽斗の一つが困ったことになっている。
閉まらない。
石けんで満杯なのである。
旅から帰ってくるたびに増えていく。増やさなければいいじゃないかと言われるが、そうはいかない。
ちょっとしか使っていない石けんをもったいないと思い、つい持ち帰るも、1人暮らしでは全く減らないので抽斗が満杯になってしまう。
さらに言えば、歯ブラシ、シャンプー・リンスの類も持ち帰ってしまうので、当然増えている。これらのことを「ケチ・コレクション」という。
著者曰く、もったいないというよりかは、ホテルの備品が好きなのだそうだ。
特に外国のホテルは、旅の思い出として持ち帰りたくなる品々があふれており、余計に持ち帰りたくなるそうだ。まあ、わからなくもないけど。
バンコクのマンダリンオリエンタルホテルに泊まった時に、記念に傘を持ち帰ったそう。
しかもこの傘有料だったのですが、そこは「有料なら結構です」と言えず、そのまま持ち帰ることに。エッセイの最後に写真が掲載されています。
それにしても、ずいぶん大きい傘ですね。スーツケースに入らなかったので、手荷物としてずっと持っていたようです。さぞかし邪魔だったことでしょう。
幼い頃兄と一緒ならどこへ行くにも怖くなかったのに、1人で行くことになったら途端に何もできずに怖くなる話。
初めての海外旅行はハワイでそれも父親から日時指定され、学校を休むも、道中に父に怒鳴られたことを恥ずかしく思い、ホームステイ先の人に慰めてもらったり。
意外や意外なのですが、アガワさんがワシントンに暮らしていた時の話もあります。
ワシントンでの遊学の終わりの半月前に、どうしても日本での仕事が入ってしまったので、一度日本に戻ってからワシントンに着いたときの入国審査でのこと。
「ビザが切れているのに、なぜ戻って来たのだ」と入国審査時に聞かれ、納得ができなかったようなので、別室へ連れて行かれます。
アガワさんは「すぐに日本に帰る」と繰り返し、帰りの航空券を見せて、やっと解放されたようですが。
なんでも、独身女性は一度入国したら、現地で結婚したりでそのまま居着くケースもあるからなのだそうだ。
同時多発テロ事件の前ですらこれですからね…。今はより厳しいのではないでしょうか。普通の旅行客も厳しかったですわ…。
1年ほどたって、ワシントンで暮らしていたアパートの郵便物の中に裁判所からの封筒があるという連絡をもらいます。
空港の一件だろうか、駐車違反はきちんと処理したはず…。一体何だろうと思ったら、JURYで陪審員の連絡でした。
社会保障番号を持っていたので、市民でなくとも対象になるのだとか。もはや仰天です。JURYという単語を知らなくても、陪審員の資格の連絡はやってくるのですから。
今はどうなのでしょうかね。謎ですが…。なんだか異国のことを知りつつも、ちょっとくすっと笑えてしまいました。
あと、この話はすごく共感できます。引用でつなぎます。
おみやげを買うことの上手な人がうらやましい。旅先で、「あ、あの人のためにこれを買ってあげよう」と即時に決断できる人がときどきいるが、私にはああいう真似はできない。いつもさんざん迷ったあげく、買いすぎて余るか、足りなくて苦労する。あるいは、期待していたほど喜ばれず、損をした気分になるのが関の山である。
いっそ人へのおみやげなんて一切やめよう。もともと買い物下手であるのだから、失敗は自分に留めるにかぎる。
おみやげを買わない主義に徹した理由はもう一つある。旅先の貴重な時間を取られるのが嫌だったから。せっかくのんびりしようと思って出かけた旅なのに、おみやげを買うことで半日を費やし、探し回ってくたびれて、体力を消耗したあげく、荷物は重くなる。
長すぎる引用ですみませんが、まさにその通りです。
おみやげは必要最小限でいいと思います。国内は便利ですよ、おみやげを買える場所がきちんと用意されているのですからね。
ただ、海外はそうもいきませんけど、最近は空港で調達しています。おみやげのことを考えるのは結構面倒ですからね。
しかも、海外だとおみやげだなんて文化がないから、そんなにきちんと用意がないし。
地味に悩めるおみやげの失敗談を展開していきます。
富山のマス寿司をいただいたときに、みんな偉いと思います。
なぜなら、自分の感じた楽しみ、喜び、おいしい感動を、旅に同行できなかった人間にも味わわせたいと願う気持ちが強いから。
自分のことだけを考えているアガワさんが悪人のように思えてしまうのでしょう。
最後にポプリを渡した時のことを。なんと、渡したはずのポプリが戻ってきてしまったことでしょうか。喜ばれない、送って戻ってきたおみやげはわびしいと。
それがこのエッセイのエンディングです。
あげたものが返ってくるなんて、なんかちょっとむなしくなりますよね。こういう体験談が積み重なっているのでしょうね、アガワさん。
他にも、長距離ドライブの話、なんかちょっと分かる気がする家出の話、アトランタ、浅草、団体旅行の思い出など。
旅の前の話を読むと、「あー、なんかすげーわかる」という感覚や、旅の必需品の中にストールが含まれているのはさすがと思ったり。
旅に行けない2021年7月には、絶賛そう思って旅ができないストレスを発散していましたね、うん。
あとがきは、まさかの三谷幸喜です。そう、司会者をやることになったニュース番組の初回の反省点を安住さんに結構な量を送ったという方です。
なんというか、この作品の解説にはなってないです。触れられている内容は、原稿を書いている最中にタイトルが変更になったことのみ。
阿川佐和子の解説はしています。姓名判断なる能力を自称し、阿川佐和子について分析しています。
なんだそりゃな、解説です。ヘンテコ解説の上位にランキングしそうですわ。
■最後に
旅は道連れ世は情け。なかなかドタバタの多い旅に思えますが、大なり小なり皆さんの旅もドタバタな気がします。
こんな旅にならないようにしようぜ、が著者からの教訓らしいのですが、きっとそうはいかないんだろうな、という予感ばかりします。
ちょっとくすっと笑える、楽しい旅のエッセイです。