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小説 青春

【SFのような話】224.「死にがいを求めて生きているの」著:朝井リョウ

投稿日:3月 25, 2020 更新日:

こんばんわ、トーコです。

今日は、朝井リョウの「死にがいを求めて生きているの」です。

死にがいを求めて生きているの

 

■あらすじ

南水智也は植物状態になり、病院に入院している。

そこに、幼なじみの堀北雄介がほぼ毎日見舞いに来ていた。

幼なじみとはいえ、普通は病院にそう頻繁に来ないので、病院の中では噂になっていた。

 

■作品を読んで

最初の短編を読んで、智也と雄介は若干気持ち悪いの域に入りながらも、いい友情関係にあるのかなと思わせます。

ただ、なぜ植物状態で眠っている智也に聴かせる音楽が昔好きだったアニメの主題歌など、若干の違和感を残しますが。

それから話は2人の小学生時代の転校生、智也の恋人、大学生になってから、智也の植物状態に入るまでに話は及びます。

恋人との出会いが、まさかの中学生までさかのぼるとは驚きです。

でも2人は共通点があり、理解しあえる関係でもあったようです。

 

この作品を通して流れているものは、「生きがい」でしょうか。

1番最初の短編に登場する看護師と小学生の弟。雄介の通う大学で話題になっている学生活動家。そして雄介。

登場人物たちがみな生きがいを探しています。

特に看護師は日々の仕事に流され、時間に運ばれるままに職務をこなし、ただ繰り返されるだけ。何を生きがいにして生きればいいのか1番分からなくなっています。

看護師はこうも思います。

絶対こうなる、と、未来に起こるはずの変化を力強く唱えられるような、そんな変化を引き寄せられる自分の力を信じていられるような、そんな日々をもう一度、自分で手に入れたかった。

トーコは逆です。自分で無理に手に入れようとしなくてもいいのかなと。

むしろこの看護師は、突破口をきちんとつかむことができたという事実をきちんとほめてあげた方がいい。

生きがいなんて無理に見つけるものでもないし、むしろ気が付かずに死んだ顔して生きている人なんてたくさんいるので。

大学生の活動家たちもそう。活動をすることで何者でもない自分がいることに酔っている。

活動だって純粋な動機からではない。ただ、自分を否定しすぎない状況に置くことが大切だとわかった時、気持ちはきっと晴れ渡っていることでしょう。

最後は眠っている智也の章です。

眠っていながらも、智也は気が付きます。雄介の次の生きがいは自分を見舞うこと。

そうやっていつまで生きがいを追い求めながら生きるんだよ、と叫びたくても叫べない智也。

智也は、海族と山族の対立について家庭の事情もあり気が付いています。

智也と雄介は幼なじみですが、海族と山族の対立の歴史に深くかかわっています。

雄介に対しては、昔から気味悪く思っています。何かと戦わないと気が済まないので。

対立している者同士対話することを諦めたい。けど、諦めても逃れられないことを知っている。だから、智也は同性代と比べても浮つかずどこか達観した存在なのです。

同時に恋人である亜矢奈も雄介の生きがいに気が付きます。

物語の最後で智也が動きだそうとしている描写で締めくくります。

おそらくですが、智也は目覚め、雄介と対峙するのでしょう。そう予感させる描写です。

 

余談ですが、どうやら海族と山族の対立についてほかの作家とともに連作プロジェクトとして刊行されていたようです。

伊坂幸太郎も名を連ねています。一体どんなプロジェクトなのやら。

 

■最後に

登場人物たちがそれぞれ生きがいを探し求めています。それが死にがいに繋がってくるのでしょうね。

それにしても、ストーリー展開の中に隠されている伏線が見事にまとまってますし、登場人物の描写も安定感が抜群です。

さすがです、と言いたくなります。

 

-小説, , 青春

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