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【美術の本質】334.『美術の力』著:宮下規久朗

投稿日:12月 19, 2021 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、宮下規久朗の『美術の力』です。

美術の力~表現の原点を辿る~ (光文です。)

 

■あらすじ

初めてイスラエルに旅から津軽の供養人形まで。

あるべき場所で輝きを放っている美術品たちがそろっています。

 

■作品を読んで

なんというか、本書全体で厳かな雰囲気が漂います。それは読み進めればわかります。トーコ的にはきっとこういう理由なんだろうな、と。

「はじめに」で、なぜこの作品を書きまとめることになったのかが出てきます。

場所の力という章では、こう述べています。

作品自体の質はどこに移動しても変わることがないが、出開帳や展覧会では決して味わえない要素がある。寺社でも美術館でも、その作品が本来置かれてきた場こそが作品に生命力を与えるのだ。

いろいろな美術展を見ていると本当にそう思います。本来であれば、その場所でしか見られないものです。

以前、別の作品(162.「美術展の舞台裏」著:高橋明也)でも紹介しましたが、西洋美術は作品数が圧倒的に足りないので、外国から作品を借りてこないといけません。

まあ、なぜかどこかのお寺の阿修羅像は収蔵している寺よりも美術館で飾られている方がよく見える、という奇妙な展覧会もありましたが、基本はその場に行った方がいいです。

感動の大きさは変わってくると思います。

トーコの場合はそこにあるというのを知らずに行って、カラヴァッジョの「ユディト」があって驚きましたけど。10年前に見たのですが、かなり印象に残っています。「ユディト」は思っているよりも大きい作品だったので、大パノラマを見ているようでした。

そして、何よりあるべき場所で輝きを放っているのが1番素敵かもしれません。個人的にはそう思います。

「はじめに」でイスラエルを巡った後は、イタリア美術を見ていきます。

イタリア美術と1口に言っても、中世はバラバラだったので、ヴェネツィアとフィレンツェでの発展は異なってきます。

まずは、ティッツァーノから。ちょうど2016年から2017年にかけて「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展、2017年には「ティッツァーノとヴェネツィア派」展が開催されていました。

合間合間に開催されてた美術展が織り交ぜられています。言われてみればあった気がする。忘れていることも間々ありますけど。

次は、フィレンツェの美術です。ルネサンス期から花開いて、マニエリスムの発達を見ています。

個人的には、アルチンボルトが16世紀にミラノで生まれて、オーストリアで生涯を終えたのには、へえー、と思いました。ベルギーあたりで生まれ、もっと新しい人かとてっきり思っていました。

アルチンボルドと同時期の画家として、カラヴァッジョが取り上げられます。カラヴァッジョも大規模な展覧会が2016年に行われていました。

それから、ボローニャ派のグエルチーノ、20世紀のジョルジョ・モランディが登場します。

モランディの静物画は写真で見る限りすごく静謐な雰囲気が漂っています。1度ちゃんと見てみたいですな。日本で見れるか、モランディの故郷ボローニャで見るかは不明ですが。

第2章では、日本美術についてみていきます。

まず、「娯」という字についての解説です。なかなか強烈ですわ…。

「娯」という文字は、一説に、女性の隣で頭にかぶりものをつけた人が踊る情景を表すという。

…(中略)つまり、女性を伴う踊りや笑いこそが楽しみだというのである。

言われてみればこういう絵は多いです。ただ、今の時代の考えに合っているのかと言われれば、フェミニストに怒られそう…。

それは置いといて。そして、古今東西舞踏や酒宴を描いた絵の共通点として以下のことを述べています。

一見、浮き立つような楽しさを感じさせても、見ているとどこか虚しさを感じさせることが多い。実際、西洋美術では歓楽の光景は、その直後に死が襲いかかる「死の舞踏」や「メメント・モリ(死を忘れるな)」という教訓的な意味と結びつくことが多かった。

どんな歓楽もいつまでも続くものではなく、すぐに終わるものだから、それにおぼれず、来るべき死に備えて信仰をもって正しく生きよという教訓である。

なるほどね、と思います。楽しいことの後は宴の後ではないですが、ちょっとした虚しさがあるときがままあると思います。

トーコの場合は、行きたくもない飲み会で特に感じています。

実際は死まではすぐには来ないですが、何か深いものを感じさせます。西洋美術だと、最後の晩餐はまさしくこれにあたるのではないでしょうか。

ちょっと河鍋暁斎について学ぶことができます。トーコの中の河鍋暁斎のイメージは、浮世絵画家で江戸時代の人かと思っていました。

が、活躍時期は江戸時代の終わりから明治時代の半ばでおそらく1881年に出した絵が破格の値段で売れ、賞をとったと書かれています。

賞をとった絵はカラスの水墨画で、これは買い手がつくだろうな、と思いました。もう少し勉強したい画家を見つけました。

第3章の冒頭で、著者の最初の職場の風景が紹介されます。

著者は、現在の兵庫県立美術館に就職します。大学院ではイタリア美術を専門として研究していましたが、資料は全くなく、海外の学術誌も購読していなかったそうです。さらに、1990年代はインターネットが現代ほど普及していないので、研究には困難を極めたそう。

そんな意気消沈していた中で、同僚の学芸員でバロック美術を研究していた木下直之氏から、日本近代美術の面白さに出会ったそうです。

そこから日本近代美術に熱中し、デビュー論文も近代日本の裸体表現について考えたものだとか。

余談ですが、木下直之氏は現在、東京大学で文化資源学という新たな学問を立ち上げ、様々な論文を発掘しているそうです。

その様子を見て、著者はこういいます。

自分がおもしろいと思えることにこだわることこそが学問の原点であることを、彼からはいつも教えられるのだ。

これは、学問に限った話ではないです。何事もおもしろいと思えるものに没頭するのが1番です。

ここからは巻きます。第4章では、「美術家と美術館」について。

途中でまさかのデトロイト美術館の話が出てきます。ご興味を持たれた方は、良かったらこちらもどうぞ。

290.「デトロイト美術館の奇跡」著:原田マハ

第5章は、「信仰と美術」です。これも古今東西、洋を問わず、信仰と美術は密接に結びついています。西洋美術は特にそうです。

最後が、「美術の原点」です。ここで、死刑囚と美術について述べています。

死刑囚がなぜ絵を描くかは諸説あるかと思いますが、1番の理由は極度の緊張と不安から絵を描いている時間だけでもいいから逃れたいこと、描いている間は処刑されないだろうという自己暗示のためと言います。

こうしてみると、死刑囚も人間なんだなあ、と思うのです。死刑囚にならなければ絵を描かなかったはずですから、人間って、何かを表現したい生き物なんだな、と。

ただ、著者も言ってますが、こういったアール・ブリュット美術と死刑制度は安易につなげてはいけない、ことには同意します。

死刑については様々な主張があると思うので、美術が素晴らしいから死刑制度反対というのにはつながらないはずです。

そこは履き違えないようにしましょう。

様々な美術品の研究を通して、様々な著作を出版している著者が最後にたどり着いた美術の原点は、津軽の供養人形でした。

地蔵や人形が喪失の感情を人々と共有し、徐々に痛みを回復させるプロセスの一環として、大きな役割を果たします。

喪失の時に寄り添うものに美の原点を見出すとは…。そこには若くして亡くなった娘さんの影を引きづっているのも大きいのかもしれません。

 

■最後に

作品全体が巡礼の旅のようになっていて、美術が好きな方には非常にためになります。

そうではない方もこれを機に興味を持っていただければ幸いです。

 

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