こんばんわ、トーコです。
今日は、角田光代の『大好きな町に用がある』です。
■あらすじ
旅好きの作家がつづる、旅のエッセイ。著者が旅で出会ったもの、食、考えがいろいろと詰まったエッセイです。
■作品を読んで
角田さんの旅のエッセイ。なお、文庫化された当時、この作品のほかもに『いきたくないのに出かけていく』という名の旅のエッセイも出版されています。こっちも読もうかしら。
この方の旅のエッセイは地味に面白い。なぜならそれは、旅が好きで、いろいろなところから得たり感じたりをきちんと伝えているところ。
では、その魅力を見ていきましょう。
「時代も私も変わっていく」というエッセイでは、ちょうどスペインとイタリアに行くことについて書かれています。
ちなみに、目的はまさかの『八日目の蝉』の出版プロモーションのためだそう。すげー、翻訳されてるのね…。
この時、スペインに行くのは、3回目。1回目はそこから20年前に初めて旅をしたそう。27歳の時は、食べ物にはまったく目を向けなかったそう。
2度目はバスク地方。おいしそうな店を見て、20代はつくづくおいしいものに興味がなかったんだな、と思ったそう。
3回目にして、初めてマドリッドに行きます。行く前までのマドリッドのイメージは、超危険地帯。
実は20年前の旅の時に、スペインはとても治安が悪く、バックパッカーのような旅をしていたころ、スペインだけは荷物を取られ、怪しい男に付きまとわれるなど、怖い思いをしたそう。マドリッドはさらに危険ということで、外したのかもしれない。
マドリッドに着いて、早速歩いてみると、変わっている。陽ざしがいい、歩道もきれい、行きかう人も穏やかで、なにより危険なにおいがしない。一体これはどういうこと…。いい意味でいろいろと町が変わっています。
それから、みんなでバルへ飲みに出かけます。角田さんは、人と飲むのは好きですが、結構スペイン人密着してきます。ですが、酔っ払いが増えても、治安が悪い感じはしません。
現地の方曰く、マドリッドの治安はかなり良くなり、安全な町になったと。月日がたてば町も変わります。いい意味かもしれないし、悪い意味かも。でも、ちゃんとイメージはアップデートしないといけませんね。
だから、時代も私も変わる、というタイトルなのでしょうね。歳月を経れば、変わることだってありますからね。
次は、「縁と旅と人生の仕組み」というエッセイ。
24歳の時に、南北を旅した後、タイのタオ島という場所に行きます。ここは、ガイドブックにも載っていないような小さな島です。
小さな島のバンガローに泊まりながら旅をしていました。その時に隣のバンガローに日本人の夫婦がおり、意気投合ののち、仲良く一緒に遊んでいたそう。
帰国してからはそんなに交流があったとは言えない状況でしたが、ひょんなことから夫婦は札幌でスープカレー屋を営んでいることがわかり、会いに行きます。25年ぶりの再会です。
実はといえば、著者は夫婦の顔も覚えていませんでした。というか、写真がなければ25年も昔のことって忘れますね…。
けど、1目あった瞬間に2人だとわかります。覚えていたのは顔ではなく、その人の奥になる何かだったようです。
なんかすごくスピリチュアル…、と思うかもしれませんが、言われてみればそんなこともあったなあ、と思い出します。
この旅をした当時、角田さんはデビューしたはいいが、仕事がないという状態でした。当時をこう振り返ります。
そして私は自分のこの先について、明確なビジョンがなかった。そのビジョンとは、どんな仕事をしてどんな家に住んで、といったようなことではない。もっとたましいに近いこと。何を信じて、何を自分に課して、何を嫌って、何を許さず、何を目指して生きていくか。そうしたものがあのときの私には曖昧模糊としていた。それが、あの島でくっきりとしたビジョンを得たのだ。
なかなか深いことを体験しましたね。しかも、意識せずに。
タオ島で一緒にいた夫婦は当時世界一周していましたが、彼らもタオ島を最後にして帰国したそう。
ひょっとしたら、この夫婦もタオ島で重要なことを決定したのでは、と思ったそう。
時に旅は、人の何かを変えてしまうこともあります。バックパッカー旅行であれば、異国の地で自分1人で闘わないといけませんという状況です。
自分をしっかりと見つめる余裕があります。というか、1人で旅していたら、これ付き物ですよ。
単行本版のあとがきと文庫本版のあとがきを読むと、旅をすることは個人的なことであることが端的な言葉で示されています。
だから、パンデミックの時にもろともせず、海外旅行に行く人を見ても何も反応することはなかったそう。むしろ、パンデミック期間中ほぼ旅に出なくても大丈夫なことを知ったことのほうが衝撃的だったとか。
言われてみれば、トーコもそう。旅は1人でしたほうがおもしろいって、いつぞやかにいった広島で電車かバスで隣に座ったおばちゃんに言われて、「そうだな」ってスコーんと納得したことを。
一人になっていろいろと感じることで、何か整理されてすっきりして帰れること。意外とパンデミック中に旅に行かなくても大丈夫なんだな、って気が付けたこと。
より角田さんの内側に近づくことができた気がします。
■最後に
年を取って、ゆっくり自分の中で感じたことが丁寧に書かれています。
昔のイメージからアップデートされていたり、最初の旅に出てから変わらないことなど、様々なことが書かれています。
だから、旅っていいんだなと思います。