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小説

【登山小説】336.『風は山から吹いている』著:額賀澪

投稿日:12月 29, 2021 更新日:

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こんばんわ、トーコです。

今日は、額賀澪の『風は山から吹いている』です。

風は山から吹いている ―― Why climb mountains with m

 

■あらすじ

高校時代にクライミング部で頑張っていた岳は、大学に入ってからはクライミングをやらないと固く決意していた。

そんな時に、登山部の穂高に誘われ、一緒に山に登る。そんな時に、岳の高校時代の恩師宝田が登山中に滑落死する。

 

■作品を読んで

この作品を読んで思ったのは、かなり仕掛けだらけの作品な気がします。

というのも、主要登場人物の名前が、筑波岳、梓川穂高、宝田謙介と全員山に関係する名前が入っています。

これは少しずつ明らかにしますので、ちょっと待ってください。

唐突にすみませんが、ここでちょっとだけ作者のことを。

作者の額賀澪さんは、茨城県出身の同世代ということでトーコは会ったことはないですが、勝手に親近感がわいています。というのも、トーコも茨城県の人間なので。

そして、彼女は青春小説というジャンルでは見事なものを出し続けています。これもそうですが、『屋上のウインドノーツ』というデビュー作もなかなかです。(いつか紹介しますので、少々お待ちください。)

さて、本題に戻りましょう。

物語は、大学に入学したての岳が、スポーツクライミング部の部長のスカウト合戦に巻き込まれているシーンからスタートです。

どこで嗅ぎ付けたのか知りませんが、クライミング部の部長は学内のあらゆる場所にいるであろう岳に部の勧誘を進めています。

コロナ前だとだいぶしつこい勧誘だな、そりゃ、となんとなく想像がつくのですが、今の大学1、2年生に想像がつくのでしょうかね…。サークルの勧誘って結構めんどくさいのですよ。

そんな辟易する状況で、岳はクライミング部の部長との勧誘合戦中に帽子が落ちてきます。それは登山帽でした。

その帽子は登山部の部長の帽子でした。落ちてきた帽子を見て、クライミング部の部長は岳に登山部の部長に渡すように言います。

それが岳と登山部の部長梓川穂高との出会いでした。

この登山部の部長もなかなかの変わり者で有名でした。帽子のお礼にコーヒーをふるまってもらうのですが、その時に岳が感じたことです。

クラブハウス棟の屋根の上でテントを張っている時点で充分変なのだが、まさか登校前にひと山登ってしまうなんて。「コンビニに行く感覚で山に登る」とはよく言ったものだ。

なんてたって、高尾山に登ってから来て、そこの湧き水でコーヒーを入れるのですから。ぶっ飛んでる。誰がどう読んでもぶっ飛んでる。

ここで、穂高は自分の名前の由来を話し出します。穂高という名前は、飛騨山脈にある穂高連峰から来ています。これは皆さん差しが付くでしょう。苗字の梓川は、飛騨山脈の槍ヶ岳を源流とする川の名前です。

一方の筑波岳は、苗字は筑波山、岳という名前からいかにも山登りしそうな名前。

ある意味、最強の山登りコンビが出会います。ここまで山の名前がそろっている人たちはまあ、いないでしょう。

そうこうしているうちに、穂高から登山に誘われます。岳はさらに厄介な奴に捕まったと心底から後悔している最中に。

岳はそりゃ抵抗します。もうクライミングはやりたくないのですから。そんな岳に穂高はこういいます。

登山は確かにアウトドアスポーツの一種だけど、スポーツクライミングと違って勝ち負けはない。追いかけなきゃいけないタイムも順位もない。ただ、登りたい山に登って、見たい景色を見て、いい気分になって下界に降りてくるだけ。

まあ、その通りですね。登りたい山を登って、いい気分になって下界に降りるという最強にシンプルな理由。山登りを趣味にする方はよく言います。

穂高は単純に登山仲間がほしかったのでした。そこで、岳に筑波山を登ることを提案します。1度体験してから判断すればいいと、岳に断るスキを与えずにどんどん先を決めるのでした。まあ、びっくりだ。

それから、岳は秋葉原駅に集合し、筑波山に穂高とともに向かいます。初めは穂高に反発するも、筑波山に登りながら登山にほだされていくのでした。

下山するころには、岳はこう思うのでした。

何より、先ほど山頂に立ったときの気分をまた味わえるのなら、岳の予想以上に色鮮やかで、気持ちがいい大学生活を送れる予感がした。

それほどまでに、山に登るといういいきっかけをつかめたのでしょう。

第2章で、穂高とともに鍋割山に登ります。その登山の最中に岳のスマホに着信がありました。岳の高校時代のクライミング部の恩師である宝田謙介からです。

岳は宝田に対していい感情は持っていませんでした。クライミングは高校で辞める、ということを宝田に伝えたとき、実力もないのに競技を続けてあなたのようになりたくない、と言ってしまったからです。

宝田謙介はクライミングの選手でしたが、引退してからのセカンドキャリアはうまくいっていなかったそう。岳の高校のコーチは講師としてなので、不安定と言えば不安定です。

岳は、高校生ながらにそんな人生を送りたくない、とストレートに言ってしまったことを後悔しているのです。

翌日には、宝田謙介が死んだことを伝えられます。宝剣岳での滑落事故でした。しかし、自分のせいで死んだ可能性もあるかもしれない。

宝田謙介の本当の死因が分からなくなり、岳と穂高は調べはじめます。そんな時に、岳と穂高は御岳山と日の出山に登ります。

そこで、穂高は過去にプロペラ機事故で家族を亡くし、自分は大やけどを負ったこと、登山を始めるきっかけは慰霊登山だということを岳に言います。

ここで、2人は大切な誰かを失ったという経験を持つ者同士だったことが判明します。すごい設定…。

物語の終盤に差し掛かり、岳は宝田謙介が宝剣岳を登頂した時の登山計画書を入手します。それをもとに、岳と穂高は、宝田謙介と同じルートをたどった登山を行うことになります。

授業が終わったらそのまま登山に行くことになっていたので、フル装備で授業を受けたら、周りからギョッとされたり、講師から「私も登山好きなんです」という答えをもらったり。まあ、大学生あるあるですね。

ルートは、木曽駒ケ岳から中岳を経由して、宝剣岳を目指す道のりです。ふもとでキャンプ泊してからロープウェイで木曾駒ケ岳の入口まで向かいます。ちなみに、木曾駒ケ岳は夏でも花がかなりきれいです。

それから、中岳を経由し、いよいよ宝剣岳を目指します。宝剣岳はそもそも登山難易度は高いです。それが分かるような描写がいくつも入ります。なんと言っても、険しい岩場登りで有名なのですから。

穂高に続いて岳も登ります。とはいえ、人口壁とはいえクライミング経験が役に立っています。疲労感は感じるのですが、不思議と視界が鮮明になる。

淡々と登っている間に頂上にたどり着きます。きっとすごい風景なんだと思います。たどり着けたものにしかわからない風景です。

これを見て岳は確信します。宝田謙介は不幸な事故で死んだのだと。これで岳の心のしこりをとることができました。

青春小説というよりは、さまざまな事情を抱えた青年が見事に克服する物語のような気がします。

 

■最後に

爽やかさ3割、重さ7割の不思議な小説です。

自分の言動で誰かの人生を変えてしまったのではないか、と思いながら生きている大学生が、登山を通して少しずつ救われていく物語です。

 

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